欧州企業間で生産性にこれほど大きな差があるのはなぜか?

European Union flags flutter outside the EU Commission headquarters in Brussels, Belgium, March 8, 2018. REUTERS/Yves Herman
It could have a big impact on growth.Image: REUTERS/Yves Herman
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米国、EU、その他の先進国・地域で近年、生産性の伸びが鈍化したことで、政策担当者の間では、生産性向上を妨げる要因を特定し、経済成長を促す方法を見つける必要性が高まっている。これについては、さまざまな説明が示されてきた。生産性の伸びの低下は、資源配分の非効率化の拡大や企業間の生産性の大きな格差と関連づけられている(Bartelsman et al. 2013、Gopinath et al. 2017)。企業によって資本や労働の単位当たりに生み出す産出量が大きく異なるため、資源がより効率的に配分されていれば、EUは現在より高い成長を実現できる。EUの主要な目標の一つは加盟国間の資源配分を改善することだが、28か国すべての企業の限界生産物が均等化される単一市場にはなっていない。より控えめな問いとして、数十年にわたる経済統合を経て、EUの生産性のばらつきが米国で見られる水準に近づいているかを検討できる。

最近の研究では、EU企業間で資源の利用状況に大きなばらつきがあることを示した(Gorodnichenko et al. 2018)。このばらつきは、米国について従来報告されていた水準より約50%大きい(Asker et al. 2014、Bartelsman et al. 2013)。利益を最大化する企業の簡潔な動学的理論枠組みを構築し、EU全体および各国における資本の限界収入生産物(MRPK)と労働の限界収入生産物(MRPL)のばらつきを推計した。1 試算によれば、EUの限界収入生産物のばらつきを米国並みに縮小できれば(そのためには大幅な政策改革が数多く必要となる可能性が高い)、EUのGDPは20%超増加し得る。資本と労働をより高い成果を上げる企業へ再配分すれば、EU経済の生産性と産出量を高められる。

これまでの研究では、生産性のばらつきを測定し、資源配分の改善による潜在的な利益を評価することに成功してきたが、企業ごとに限界生産物が異なる理由については、ほとんど分かっていない。この問いに関する研究が少ないのは、データの制約による。EU企業間で限界収入生産物に差が生じる理由を調べるため、EU28か国それぞれで、無作為抽出した企業のデータを行政データベースと照合したEIB投資調査のデータを用いる。産業レベルおよび国レベルの変数に加え、企業の特性を用いることで、資本と労働の利用状況のばらつきを説明できる可能性がある(図1)。分析結果によれば、国と産業の交互作用効果を回帰分析で考慮したうえで、EU域内の国境や産業間の障壁を取り除けば、GDPは少なくとも18%増加し得る。国や産業の固定効果が障壁や歪みを捉えていると考えるなら、EUの共通市場はかなり分断されている。

労働配分については、企業は産業間よりも国境を越えて分断されているようだ。MRPLの水準差は産業間より国境間のほうが大きい。これは、労働者を同じ国内の別産業へ移すより、別の国へ移すほうが「コストが高い」こと、あるいは労働者の質の差が産業間より国境間のほうが大きいことを示唆する。資本利用では逆の傾向が見られる。資本を同じ国内の別産業へ移すより別の国へ移すほうが安価(または容易)である、あるいは資本の質の差が国境間より産業間のほうが小さい、と解釈できる。各国の規制や言語の障壁は、EU域内での効率的な資源配分に重要な影響を及ぼす可能性がある。

図1資本と労働の限界収入生産物の未調整および残差のばらつき

パネルA. MRPK

Image: Vox

パネルB. MRPL

Image: Vox

注:図は、各国のEU企業間におけるMRPKおよびMRPのばらつきを示す。「未調整」は統制変数なしを意味する。「統制変数+国×産業」では、企業レベルの特性に国×産業(交互作用)の固定効果を加えている。国コード:AT=オーストリア、BE=ベルギー、BG=ブルガリア、CZ=チェコ、CY=キプロス、DE=ドイツ、DK=デンマーク、EE=エストニア、EL=ギリシャ、ES=スペイン、FI=フィンランド、FR=フランス、HR=クロアチア、HU=ハンガリー、IE=アイルランド、IT=イタリア、LT=リトアニア、LU=ルクセンブルク、LV=ラトビア、MT=マルタ、NL=オランダ、PL=ポーランド、PT=ポルトガル、RO=ルーマニア、SE=スウェーデン、SI=スロベニア、SK=スロバキア、UK=英国。

既存研究では限界生産物のばらつきを障壁や歪みの表れと捉えているが、常にそうとは限らない。ばらつきの原因が障壁や歪みであれば、経済的に望ましくないのは確かだ。しかし、ばらつきの一部は企業の最適化行動(たとえば労働市場における補償賃金格差)を反映している可能性もある。これは企業の立場から見れば経済合理的であり、社会厚生にとって最適ですらあり得る。したがって、どちらの現象がデータと整合するかが重要な問いとなる。

企業の特性がMRPKとMRPLの変動をどの程度予測するかを調べる。たとえば、設備が古い企業は、最新技術を導入し、最近資本を取得した新しい企業より効率が低い可能性がある。設備稼働率の上昇も、限界収入生産物の上昇と関連している。企業レベルの特性の影響がEU全加盟国で同じだと仮定すると、MRPKの変動の11.2%、MRPLの変動の27.1%を説明できる。これは全体のばらつきのかなりの部分に当たる。設備稼働率の上昇がドイツ企業とイタリア企業の生産性に異なる影響を及ぼすように、これらの変数の影響が国によって異なることを認めると、限界収入生産物の変動の大部分を説明できる。

説明のため、企業レベルの変数を二つのグループに分ける。第一のグループには、設備稼働率、投入物の質の指標、投入物の動的調整を示す指標を含める。これらは個々の企業の方針を反映する可能性があるため、補償賃金格差に相当するものと解釈する。第二のグループには、企業の属性(企業の年齢、規模、子会社かどうか、輸出企業かどうか)、長期投資の障害、投資資金の調達源を含める。これらはあらかじめ定まった要因や事業環境を反映するため、制約や歪みと解釈する。回帰分析では、二つの変数グループの予測力は同程度である。この変数分類を受け入れるなら、重要な結論を二つ導くことができる。

第一に、限界収入生産物の未調整のばらつきは、資源配分の非効率性を過大評価している可能性が高い。変動の一部は投入物の質の異質性によって生じている可能性があるためだ。

第二に、歪みは相当程度存在する可能性が高く、それを取り除けば生産性が大幅に向上し得る。

企業レベルの説明変数に明確な外生的変動があるわけではないが、それらの予測力から、重要である可能性の高い要因や、因果効果の推定に向けて今後の研究が注力すべき点が見えてくる。

また、Machado-Mata分解を用いて、各国の限界収入生産物の反実仮想分布を作成する(Machado and Mata 2005)。この分解により、観察された限界収入生産物の変動が、次のどちらによって生じているのかをより深く理解できる。

企業特性の国ごとの差、または

事業環境、制度環境、政策環境が、異質な企業間の資源配分を導く仕組みの国ごとの差(すなわち、特性に対する回帰係数がどのように成果に「価格付け」されるか)。

限界収入生産物のばらつきに見られる国ごとの差は、企業特性そのものの違いよりも、各国の事業環境、制度環境、政策環境の違いによって大きく左右されることが分かった。この結果が重要なのは、大規模なミクロ経済学的証拠により、EU企業間の限界収入生産物の変動を制度が説明できることが示されるためである。

表1資本と労働の限界収入生産物のMachado-Mata分解

Image: Vox

注:表は回帰分析に基づき、限界収入生産物の実際のばらつきと反実仮想のばらつきを示す。ドイツとギリシャを例にしているが、サンプルに含まれる任意の国の組み合わせで同じ分析を行える。

ギリシャとドイツの例を見ると、限界収入生産物のばらつきはドイツよりギリシャの企業間で大きい(表1)。しかし、ドイツ企業をギリシャへ移しても、ギリシャ企業より効率的にはならないことが分析結果から示唆される。ドイツ企業の限界収入生産物のばらつきは、ギリシャで実際に観察された水準をさらに上回るだろう。ギリシャの事業環境、政策環境、制度環境は、企業間の限界収益のばらつきを縮小するうえで、比較的効果が低いようだ。一方、ギリシャ企業をドイツへ移せば、ドイツ企業とほぼ同じ効率性を得られるだろう。この反実仮想分布の標準偏差は、ドイツで実際に観察された限界収入生産物の分布にかなり近い。言い換えれば、ドイツの事業環境、制度環境、政策環境は、異質な企業間の収益の均等化を促しているようだ。

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