強固なデジタル基盤がなければ、他の地域が前進し、新たなデジタル時代を最大限に活用するなか、欧州は後れを取るおそれがある。
欧州のデジタルインフラへの平均投資額は、米国の投資額の半分未満である。
適切な措置を講じ、欧州のコネクティビティ・エコシステムに向けた強固な産業戦略を実行すれば、欧州は今からでも追いつき、デジタル時代のリーダーとしての地位を確立できる。
AI、量子コンピューティング、拡張現実などの先端デジタル技術が特徴となる時代において、変革をもたらす可能性は比類がない。こうした変化は、世界のあらゆる地域で雇用、競争力、気候変動対策に影響を及ぼす。
デジタル時代に世界をリードするのは、デジタルインフラに必要な投資を行い、イノベーションと起業家精神を促す環境を整え、それによって雇用と投資を呼び込む地域、国、企業である。
今は欧州にとって重大な局面である。エンリコ・レッタ氏とマリオ・ドラギ氏による最近の報告書は、欧州と他の地域との格差が拡大していることを明らかにするとともに、その解消に向けた方向性も示した。先進的な5Gコネクティビティへの投資は、その重要な要素である。
競争力と投資を最優先課題に掲げる新たな欧州委員会が発足した今、欧州には10年に一度の好機が訪れているかもしれない。そして、この機会を逃してはならない。強固なデジタル基盤がなければ、他の地域が前進し新たなデジタル時代を最大限に活用するなか、欧州はさらに後れを取るおそれがある。
過去から学ぶ:デジタル導入の遅れがもたらした結果
過去10年間、米国と中国は、全国規模のモバイルデータ通信網である4Gをいち早く導入し、消費者のデジタル化を主導した。欧州では4Gの展開が遅れたため、機会を逃し、経済的な利益を失った。
欧州と米国の格差拡大は、特に顕著である。欧州と米国の株価指数は2009年までは連動していたが、それ以降、米国市場は欧州を大きく上回る伸びを示している。デジタル企業の台頭を見ると、2023年に評価額が100億ドル以上だった69社のうち、欧州企業はわずか5社だった。平均して、米国企業は欧州企業を上回る業績を上げており、成長と収益性におけるその差は主にテクノロジーに起因する。
今日、米国と中国は同様に、高性能な5Gの展開を主導している。また、インドや中東の一部など、世界の他の多くの地域でも急速な進展が見られる。
欧州のデジタルインフラへの平均投資額は、米国の投資額の半分未満である。その一因は規模にある。モバイル通信事業者にとって規模は重要だが、EUの政策は規模よりも市場の分断を優先してきた。平均すると、欧州の事業者1社当たりの加入者数は約500万人で、米国の1億700万人、中国の4億6,700万人と比べて少ない。欧州には100社を超える事業者があり、その大半は十分な投資を行い、使用資本利益率を資本コストより高くするだけの規模を欠いている。
欧州が競争力を維持するには、本格的な5Gが必要
世界では、高度な5Gアプリケーションが登場し始めている。例として、鉱山での自動運転車、自動化された無線生産ライン、5Gネットワーク経由でコンピューターを接続して従来型のITインフラを置き換えるなど、日常的な企業向けアプリケーションが挙げられる。
さらに、デジタル化は、現代最大の課題である気候変動に取り組むうえで重要である。エリクソンが委託した調査によると、コネクティビティは2030年までに欧州の二酸化炭素排出量を15%削減する一助となる可能性がある。欧州の主要産業全体で5Gを利用可能にすれば、さらに5%の削減が見込める。
しかし、5Gおよびその先の技術による変革的なユースケースの大半は、まだ将来のものだ。これらを開発する起業家やイノベーターがイノベーションを推進し、欧州の競争力を維持するには、先進的なネットワーク機能を利用できなければならない。
こうした先進機能には、本格的で安全な5Gコネクティビティへの大規模な投資が必要となる。これは、中帯域で展開される5Gスタンドアローン(5G SA)と呼ばれるものだ。今日の欧州で見られる5Gの多くは、低周波数帯で展開されており、5Gスタンドアローン機能を備えていない。簡単に言えば、現在、5Gスマートフォンを持つ欧州の消費者には5Gのマークが表示されることがあるものの、利用体験やデータ通信速度は4Gと同等である場合が多い。
政治的な行動が必要
私は欧州統合の取り組みを信じており、欧州で市場の力がイノベーションと持続可能な成長を促すには、今こそ迅速かつ大胆な政治的行動が必要だと確信している。EUと欧州各国政府は、次の分野を優先すべきである。
1. 欧州の国内通信市場における統合を可能にする
中帯域を用いた5Gスタンドアローンの迅速な展開を約束することを条件に合併を認めれば、より強固で競争力のあるデジタル環境を育むことができる。この手法は、オーストラリア、インド、米国、そして最近では英国などですでに採用されている。
2. 周波数免許の原則を調和させ、短期的な利益と5G投資の間でバランスを取る
周波数免許は各国レベルで実施され、日程や条件には大きなばらつきがある。欧州各国では、ネットワークの品質や展開よりも高いオークション収入を優先する国が多く、5G展開への投資を妨げている。周波数利用料と展開の約束を引き換えにすることで、欧州各国は高品質な5Gネットワークの拡大を確実にできる。
3. 市場の動向に応じ、デジタル移行に向けて対象を慎重に絞った技術中立的な公的投資を活用する
Next Generation EUやその復興・強靱化ファシリティなどの仕組みを通じて、EUから多額の資金が提供されている。例えばスペインでは、5Gの整備にこうした資金が有効に活用された。この支援は技術中立的なものとし、コネクティビティの強化に最も適した選択肢に充てるべきである。
4. 5Gセキュリティに関する調和の取れた包括的なアプローチを実施する
産業や重要な公共サービスのデジタル化が進むなか、5Gのサイバーセキュリティと5Gネットワークに対するエンドユーザーの信頼は、欧州のレジリエンスに欠かせない。EUの主要機関とマリオ・ドラギ氏は、セキュリティリスクを軽減するには、加盟国がEUの5Gツールボックスを完全に実施する必要があるとの見解を示している。現在、EUのツールボックスは一貫した形で実施されておらず、通信市場に不確実性を生み、欧州のネットワークへの信頼を損なっている。
欧州の将来の繁栄がかかっている
今日の選択が、繁栄へ向かうのか、緩やかな衰退へ向かうのか、欧州の未来を決める。適切な措置を講じ、欧州のコネクティビティ・エコシステムに向けた強固な産業戦略を実行すれば、欧州は今からでも追いつき、デジタル時代のリーダーとしての地位を確立できる。解決策はすでにそろっている。今こそ行動すべき時だ。



