1月に政権を握ってからわずか数カ月で、ギリシャのシリザ連立政権は、強硬姿勢を崩さない欧州中央銀行から譲らない欧州理事会まで、行く手に次々と障害に直面している。
とりわけECBは、中長期的な構造改革を交渉する時間を確保するための短期的なつなぎ融資を求めるギリシャの提案を退けた。
そのため、ギリシャと債権者は、迫る6月の期限までに合意を見いだそうと 苦闘しており 、同国がユーロ圏を離脱する可能性も現実味を帯びるなか、私たちは再び危機の瀬戸際に立っている。
大西洋の向こうからも、助けが届く見込みは薄い。
今月初め、ギリシャのヤニス・バルファキス財務相がワシントンを訪問した際、国際通貨基金も米国政府も ほとんど 支援や希望、新たなアイデアを示さなかった。
しかし実は、欧州には解決策がある。それは 欧州投資銀行 (EIB)だ。EIBは、複数の国が支える世界最大の融資機関である。EIBはその金融力を活用し、道路や学校などのインフラに必要不可欠な投資を行うべきだ。それによって、沈みゆくギリシャ経済だけでなく、大陸各地で景気後退に苦しむ多くの国々の経済も活性化できる。ひいては民間投資の大きな流れを促し、欧州を再生させ、危機から危機へとつまずき続けるパターンを終わらせられる可能性がある。
時間は、ギリシャと欧州だけでなく、世界経済にとっても尽きかけているのかもしれない。
結局のところ、ギリシャが債務不履行に陥ることは、好機を無駄にするよりも深刻ではないかもしれない。私たちが避けたいのは、ユーロの根幹にある問題を解決する機会を逃すことだ。
当初から欠陥を抱えていた
論客 たちは欧米で長年、連邦制を伴わないユーロ圏の通貨統合は、欧州合衆国を形成する場合とは異なり、1960年代に初めて構想が持ち上がった時点から欠陥を抱えていたと指摘してきた。
1992年に欧州連合を創設した マーストリヒト条約 は比較的厳格な財政目標を定めたものの、中央財政当局は設けず、今日の問題の核心にある 構造的な不均衡
を生み出した。7年後に経済通貨同盟がユーロを誕生させると、金融危機や財政危機の見通しはさらに悪化した。
こうした見方は確かに正しいが、「悪い」歴史をさかのぼって修正することはできず、深刻な危機のさなかに連邦制を築く手っ取り早い方法もない。
連邦制がなければ、欧州の一部地域にある資源(余剰貯蓄)を集め、最も必要とされる別の地域に投資し、加盟国間で負担を分かち合うのは難しい。通常これには、共通の課税・借入政策に加え、地域間の資金移転を組み合わせた何らかの財政連邦主義が必要となる。
投資による成長
ドイツとギリシャの応酬に注目するあまり、しばしば忘れられているのが、欧州連合の銀行であるEIBの存在だ。
株主がEU加盟28カ国であるEIBは、この地域の政策目標を実現するために設立された。現在は主に、民間部門を対象に比較的小規模な融資を行っている。
しかし、事業を拡大し、公共投資の資金調達に向けた融資を始めることもできる。独創的かつ建設的な資金調達を行えば、EIBは今からでも欧州内外の遊休貯蓄を動員して、公共・民間投資を通じた生産性、成長、雇用の促進に取り組める。総需要、つまり経済全体を成長させることもできる。
また、金利を引き下げるために特定の種類の債券を買い入れるECBの量的緩和策と連携して取り組むこともできる。EIBが全加盟国の裏付けを得た特別なユーロ債を発行し、ECBがその一部を買い入れることも可能だ。これによりシステムに新たな資金が注入され、中央銀行の保証によって民間の貯蓄者がこうしたユーロ債をさらに購入するよう促される。
実際、EIBはこの方向に沿った計画を展開しているところだ。
欧州戦略投資基金は、まだ完全には批准されていないものの、主に民間資金による約3,150億ユーロ(3,430億米ドル)の投資を支援すると見込まれている。
これは出発点であり、役に立つだろう。ギリシャ自体は、それほどの額を必要としていない。現時点では数十億ユーロ規模の投資プロジェクトでさえ、景気回復の大きな後押しになる。将来の確約は信頼性と安定性を生み、後の民間投資を呼び込むだろう。
しかしEIBに本当に必要なのは、資本を現在の2,430億ユーロから7,500億ユーロ、あるいは1兆ユーロにまで増強することだ。それによって、自ら借り入れを行い、さらに数兆ユーロを投資できるようになる。
これにより、欧州全域を対象とする投資・雇用創出プログラムの財政的基盤を整え、ギリシャやスペインなど最も深刻な打撃を受けた地域から着手できる。欧州の経済エンジンであるドイツは、ここで主導的な役割を果たさなければならない。
乗数効果
次の段階では、乗数効果が最も大きく、ギリシャ、スペイン、イタリア、ポルトガルなどの景気低迷地域で雇用を創出する可能性が最も高い事業を選ぶことになる。そのためには、公共部門の投資が極めて重要だ。
私自身で、また公共財政や関連分野の他の研究者と共同で行った 研究 では、実証的な証拠によって裏付けられた、希望の持てる理論的な知見が 得られた 。すなわち、景気低迷下の経済では、民間投資家は通常、公共部門の投資、特にインフラ投資が行われるのを待ってから追随する。
多くの場合、民間投資と公共投資は相互補完的であり、最終的に雇用、支出、成長にもたらされる乗数効果も同様だ。
多国間援助と日本の二国間援助の双方について、私たちの 研究 は、道路その他の物的インフラへの公共投資が波及効果を生み、当初の投資額の2倍、あるいは3倍に達することを明らかにした。学校への投資にも同様の効果があり、それに応じて雇用も増える。
新たなマーシャル・プラン
欧州は、公共投資と民間部門の資金を組み合わせることを目指す初期的な試みから始められる。EIBの場合、支出した1ユーロが経済全体の産出を2倍から3倍に押し上げると私は見込んでいる。
成功が確認されれば、さらに野心的な計画へと進み、欧州復興計画、よりよく知られるところの マーシャル・プランの21世紀版を創設できる。
総額470億ドル、4年間のこの計画は、戦争で荒廃した欧州の再生を1947年に後押しした。危機に見舞われた今の欧州も、まさにそのような支援を必要としている。
現在の路線を維持すれば確実に続く、より深刻な危機を回避するだけでなく、より繁栄し民主的な未来を築くためにも、欧州が経済・金融面での創意と大胆さを示すべき時だ。
提案されているEIBの投資による成長策に続いて実行できる、建設的な措置はほかにも数多くある。
あらゆる地域の進歩派の経済学者や政治経済学者が、こうした重要な議論に参加する必要がある。欧州の未来だけでなく、世界の繁栄と民主化の歩みの未来も、ある意味で、今後数カ月に欧州で何が行われるかにかかっているのかもしれない。
本記事は、 ザ・カンバセーションとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。
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著者:ハイダー・カーンは、デンバー大学のジョン・エバンス特別経済学教授。
画像:2014年8月7日、欧州中央銀行(ECB)本部の隣にある巨大なユーロのロゴ。REUTERS/Ralph Orlowski。

