世界金融危機の際、政策当局は銀行破綻への対応において厳しいトレードオフに直面した。破綻しそうな銀行を救済するために公的資金を使うこと(ベイルアウト)は、市場規律を弱め、過度なリスクテイクを招くおそれがあった。これがモラルハザード効果である。
民間投資家に損失を負担させること(ベイルイン)は、金融部門と経済全体を不安定化させるおそれがあった。これが波及効果である。ほとんどの場合、銀行は公的資金で救済された。
これにより国民の反発が生じ、政策当局は銀行の破綻処理の負担を納税者から民間投資家へ移す措置の導入を促された。
破綻しそうな銀行の処理ではベイルインを基本とし、民間の利害関係者が損失を負担すべきである。
私たちの最近の研究は、2018年春季会合のアナリティカル・コーナーでも取り上げられ、銀行が破綻した際にどう対応すべきかを検討している。
私たちは、モラルハザード効果と波及効果のバランスを慎重に取り、トレードオフを改善する破綻処理の枠組みを提唱する。この枠組みでは、ベイルアウトを原則ではなく例外とする。
モラルハザード効果と波及効果のバランスを取る
危機はすべて同じではない。波及効果がほとんど、あるいはまったくない局地的な危機もある。そのような場合、ベイルアウトはモラルハザードを生むだけだ。破綻しそうな銀行の処理ではベイルインを基本とし、民間の利害関係者が損失を負担すべきである。
一方、経済のあらゆる分野、あるいは複数の国に同時に影響を及ぼすシステミックな危機もある。
このような状況で銀行破綻に伴う不安定化の波及が生じれば、公的資源の活用が正当化される。モラルハザードは依然として存在するものの、問題の銀行に利害関係を持たない人々も含め、すべての人に損害を与える深刻な危機という代替案に比べれば、許容できる。
したがって、この枠組みではほとんどの場合にベイルインを行うことを原則とし、ベイルインがマクロ金融の安定にもたらすリスクが例外的に深刻な場合に限り、公的資金の利用を認めるべきである。
トレードオフの改善
こうしたジレンマを避ける最善の方法は、波及効果と、そもそもベイルアウトが必要となる可能性を減らすことだ。相互に補強し合う二つの仕組みによって実現できる。
第一の仕組みは、危機の発生確率を下げ、危機が起きた場合のコストを最小限に抑えることだ。そのためには、レバレッジとリスクテイクを抑え、資本と流動性を厚くした、より強靱な銀行システムが必要となる。そうすれば、銀行が経営難に陥る可能性は低くなる。また、問題が起きても、銀行は政府の支援なしに損失を吸収できる。
第二の仕組みは、ベイルインを実行可能な選択肢にすることだ。問題は、政策当局が経営難の銀行をベイルインすると約束しても、危機の際にはベイルアウトに踏み切りたくなることだ。そのため人々はベイルインが実施されるとは信じず、ベイルアウトが行われると期待し続ける。
これは両面で最悪の結果を招く。波及効果があり、さらにモラルハザード効果も生じるからだ。
政策当局は、実際にベイルインを行うという確約にどうすれば信頼性を持たせられるだろうか。
第一に、銀行が損失を吸収できる十分なバッファーを備えるようにし、破綻時にどの投資家の債権(債券や預金など)を、どの順序で減額するかを事前に明確にする。第二に、損失を理解し、吸収できる専門性を持つ投資家に限り、ベイルインの対象となる債権を保有できるようにする。第三に、定期的な評価、銀行の破綻処理方法を明記したリビングウィル、脅威の影響を評価する国内および国境を越えた訓練を通じて、システム上重要な銀行の破綻処理可能性を高める。
トレードオフのもう一方の側面に目を向けると、モラルハザードをどう抑えればよいだろうか。
第一に、ベイルアウトは例外的な場合に限り、明確な出口計画に基づいて一時的に実施すると、信頼できる形で約束する。第二に、損失を吸収できる主体をベイルインした後に限って、公的資金を使う。第三に、危機が去った後にベイルアウト資金を回収し、すべての措置を透明性と説明責任を確保して実施する。
今後の方針
危機後の改革は、ベイルインを信頼できる選択肢にし、ベイルアウトの可能性を低くすることを目指し、トレードオフを改善してきた。
米国や欧州連合(EU)などの新たな枠組みは、ベイルインを含む、銀行を破綻処理するための包括的な権限を導入している。また、銀行に損失を吸収する十分なバッファーを確保させてベイルインによる波及効果を抑えるとともに、効果的な破綻処理計画を通じて銀行の破綻処理可能性を高めることを目指している。
私たちは現在進行中の改革を支持し、破綻処理の枠組みではモラルハザードを最小限に抑えるべきだと強調する。同時に、システミックな危機において、波及効果がマクロ金融の安定を深刻に損なう可能性が高いと判断される場合に公的資源を活用できるよう、十分な、ただし制約を伴う柔軟性を確保する必要性も強調する。



