この6年間、EYのグローバル会長兼CEOを務める栄誉に浴してきました。世界経営委員会に在籍した約12年間を含め、EYで過ごした時間は、人生で最も実り多い経験の一つでした。来年の夏に退任するにあたり、CEOとして最後となる世界経済フォーラム年次総会への出席を控え、ダボスでの議論が年月とともにどのように変化してきたか、そしてそれが21世紀におけるグローバルCEOの役割の変化について何を示しているのかを振り返っています。
2013年にCEOに就任して以来、世界は大きく変わりました。そう言っても控えめな表現でしょう。たとえば、私が初めて出席したダボス会議の一つでは、新たな地域貿易協定が繁栄の共有を促す可能性について、誰もが話しているようでした。今では、世界秩序全体が再編される可能性を論じる人が多くいます。つまり、懸かっているものは格段に大きくなっています。
一方、私の在任期間の初めに直面した課題の多く、たとえば所得格差の拡大や制度への信頼の低下は、いまだ解消されていません。それどころか、技術が急速に進歩し、変革をもたらす破壊的変化が起きる時代に、課題はさらに深刻さと緊急性を増しています。今日のCEOは、ビジネスモデルを改善する方法を常に考えると同時に、産業や企業を急速かつ大規模に変える動きに対処し、世界各地の社会に広がる強い不確実性にも向き合わなければなりません。
こうした課題の深刻化により、グローバルCEOは自社の率い方を適応させ、ひいては自らの役割についての考え方を広げる必要性がますます高まっています。
CEOの責任は、財務上の成功にとどまらない
EYでの経験と、世界各地の企業や政府のリーダーとの数え切れないほどの対話を踏まえ、私は数年前、CEOの役割は進化しなければならないと論じました。
以前の世代では、CEOが自ら進む道を定め、人々がそれに従うことを期待するだけで、成功できる場合が少なくありませんでした。事業がうまく実行されれば、CEOは報われました。しかし、今はそうではありません。
今日、企業が説明責任を負うステークホルダーは増え続けています。従業員から取締役まで、誰もがCEOに対し、どこへ向かうのかだけでなく、なぜそこへ向かうのかを明確に示すよう求めています。つまり、私たちはビジョンをステークホルダーに伝え、正しい道を進んでいると納得してもらう必要があります。同じくらい重要なのは、自社の価値観を伝え、それを測定・検証できる行動で裏付けることです。
なぜでしょうか。CEOはかつてないほど多くの人々を代表して発言し、より公の場で説明責任を問われるからです。ソーシャルメディアの時代には、CEOの発言や行動のほぼすべてが即座に精査され、論争を招く可能性があります。また、政治的な対立が深まるなか、企業が掲げる価値観に反する問題が生じたとき、従業員、クライアント、顧客は、私たちが公に声を上げることをますます期待しています。ここ数年、ある問題をめぐって企業が誤った側に立っていると見なされ、圧力を受ける様子を誰もが目にしてきました。こうしたことはすべて組織のブランドに影響します。ブランドは、ますます重要な価値の尺度となっています。
2017年にトランプ米大統領のビジネス諮問委員会に加わったときも、このことを考えていました。政界のリーダーとの関わりを保つことが重要だと考え、参加しました。委員会は、意見を直接伝え、重要な懸念に耳を傾けてもらう機会を提供しました。一般論として、外から批判するよりも、会議の場に加わり、自らの経験と意見を議論に持ち込む方がよいと考えています。そのため、委員会は最終的に解散しましたが、私は今も、世界、国、地域の各レベルで官民連携の取り組みにEYを代表して参加するため、多くの時間を費やしています。
誤解のないように言えば、CEOが政治家のように、純粋に政治的、あるいは党派的な議論で自らの見解を主張すべきだと言っているのではありません。しかし、事業に影響を及ぼす問題や、組織としての価値観に反する問題が生じたとき、私たちは議論に加わり、意見を表明する必要があります。

今日のグローバル経済では、貿易のような従来型の「ビジネス」課題を、移民やジェンダー平等などの問題と切り離すことはできません。こうした問題もまた、企業や従業員、事業を展開する地域社会に深い影響を及ぼします。自分たちの立場を明確にしなければ、ステークホルダーの信頼を失い、場合によっては取引も失うおそれがあります。さらに、組織に必要な連帯感を弱め、大切にしている価値観そのものを損なうことにもなります。
社会における企業の役割も変わった
もちろん、こうした進化は、社会における企業の役割がより広く変化していることの一部です。
つい最近まで、企業の第一の責任は株主に経済的価値を生み出すことだと広く考えられていました。企業やCEOがほぼ専ら説明責任を負う相手は、株主でした。より広い範囲のステークホルダーに利益をもたらそうとする企業は以前からありましたが、そうした取り組みは通常、成功のための基本的な期待や要件ではなく、他社との差別化策と見なされていました。
しかし、急速に変化する今日の世界では、企業が成功するには、多くのステークホルダーに価値をもたらさなければならないというのが現実です。株主価値は今なお極めて重要ですが、企業が従業員や地域社会などに与える影響と切り離されたものではありません。
企業はさまざまな方法でこの責任を果たせます。たとえば、企業が行える最も価値ある投資の一つは、自社の人材への投資でしょう。企業の戦略を実行し、企業文化を形づくり、顧客や地域社会に対する大使の役割を果たすのは従業員です。従業員は雇用主に教育と能力開発を期待します。そのためEYは、毎年、従業員の育成と教育に約5億米ドルと1,300万時間以上を投じています。これに加え、重要な実務経験を通じた学習やメンタリングも提供しています。また、EYバッジと呼ばれるデジタル資格認定も導入しました。キャリアを通じて役立つ新興技術関連のスキルを身につけてもらうためです。
企業は、他の組織とともに教育、メンタリングなどの地域社会の取り組みを支援することで、社会への貢献を高めることもできます。たとえば、新たな取り組み「EY Ripples」では、若者のスキル習得を支援するとともに、世界各地で大きな成果を生み出す起業家を支援しています。2022年までに、EYの従業員とネットワークから100万人を超える人々を動員し、1,000万人の人々と組織に直接的な影響をもたらすことを目指しています。
いずれの場合も、ステークホルダーに価値を生み出すことは、企業が行うと望ましいというだけのものではありません。最終的には株主にも利益をもたらす、戦略上不可欠な取り組みです。企業が従業員や地域社会に投資すれば、直接恩恵を受ける人々に新たな機会が生まれるだけではありません。より強い労働力と、より良い事業環境の形成にもつながり、ステークホルダーと株主の双方に利益をもたらします。
次世代のCEOがリーダーシップを発揮する時だ
CEOとして過ごした時間を振り返ると、世界がどれほど変わったか、そしてそれに伴ってグローバル企業への期待がどれほど変化したかに、あらためて驚かされます。変革と不確実性の時代にある今日、世界中の人々が企業社会にリーダーシップを求めています。次世代のCEOがこの課題に立ち向かう時です。私たちがリーダーシップを発揮する資格は、それにかかっています。



