予想どおり、欧州中央銀行(ECB)は、中央銀行の歴史上最大の実験において、世界の他の主要な金融当局に加わった。
今では、そのパターンはあまりにもおなじみだ。まず、中央銀行は従来型の政策金利を、忌まわしい「ゼロ制約」まで引き下げる。経済の弱さが続くなか、従来型の手段を使い果たすと、次に非伝統的なアプローチである量的緩和(QE)を採用する。
この戦略の理論は単純だ。信用の価格をこれ以上引き下げられない中央銀行は、その量の拡大へと焦点を移す。暗黙の主張は、価格調整から量的調整への移行が、追加的な金融緩和と機能的に同等だというものだ。したがって、名目金利がゼロ制約に達していても、中央銀行にはなお武器が残されている、と論じられる。
間違った武器なのか?
しかし、その武器は課題に対処できるのだろうか。経済と総合物価水準に深刻な下振れリスクを抱えるECBと日本銀行(日銀)にとって、これは決して軽視できない問いだ。QEの最終的な影響がまだ明らかでない米国にとっても、その答えは同じく重大な意味を持つ。
QEの影響は、金融政策の「三つのT」にかかっている。すなわち、伝達(金融政策が実体経済に影響を及ぼす経路)、浸透(経済が政策措置にどれほど反応するか)、そして時間的一貫性(完全雇用や物価安定など、特定の目標を達成するという当局の約束に対する揺るぎない信頼性)だ。金融市場がQEを歓迎し、米連邦準備制度理事会(FRB)が大いに自賛していることはさておき、三つのTに基づく分析はECBに再考を促すはずだ。
資産効果
伝達の面で、FRBは、いわゆる資産効果に焦点を当ててきた。まず、2008年末以降の約3兆6,000億ドルに上るバランスシート拡大は、QE期間中の名目GDP成長額である2兆5,000億ドルを大きく上回り、資産市場を押し上げた。投資家のポートフォリオ運用成績の改善――2009年3月の危機に起因する安値からS&P 500が3倍以上に上昇したことに表れている――が、富を増した消費者の支出急増を促すと想定された。日銀も、自らの量的・質的金融緩和(QQE)政策について同様の根拠を用いてきた。
しかし、個人による株式保有(直接保有、または年金口座を通じた保有)が米国や日本よりはるかに少ない欧州では、ECBが資産効果を主張するのはより難しい。欧州では、金融政策は銀行を通じて、また通貨経路を通じて伝達される可能性が高い。ユーロ安は、過去1年間に対ドルで約15%下落しており、輸出を押し上げる。
難点
QEの本当の難点は、政策効果の浸透に関わる。消費が危機後の回復の不足分の大部分を占める米国は、その好例だ。過剰債務と貯蓄不足の環境では、資産効果は、不動産と信用のバブル崩壊時に米国家計を直撃したバランスシート不況を和らげるうえで、ほとんど役立たなかった。実際、実質消費の年率換算成長率は、2008年初め以降、平均わずか1.3%にとどまっている。実質GDPの現在の回復が年率2.3%の軌道にあり、過去の景気循環の標準を2パーセントポイント下回るなか、QEが広く称賛されていることを正当化するのは難しい。
日本の大規模なQQEも、同様に政策効果の浸透に問題を抱えてきた。バランスシートをGDPの約60%、FRBの2倍にまで拡大した後も、デフレ終結を目指す日銀の取り組みはますます効果を失いつつある。日本は再び景気後退に陥り、日銀は今年のインフレ目標を1.7%から1%へ引き下げたばかりだ。
最後に、QEは時間的一貫性の面でも期待を裏切る。FRBは、QE後の正常化戦略について、経済情勢やインフレリスクに関する多数のデータ依存の条件を長らく付してきた。さらに最近では、低金利を「相当な」期間維持すると述べる姿勢から、利上げ時期の判断において「忍耐強く」対応すると約束する姿勢へと転じ、金融市場への指針を示すために曖昧な形容詞に頼っている。
しかし、2011年に通貨をユーロに連動させた後、過度な通貨高を防ぐために紙幣を刷ったスイス国立銀行(SNB)は、QEの心臓に最も鋭い短剣を突き刺した。1月15日、ユーロとの連動制を予想外に放棄したことで――それを維持するとの約束を改めて表明してから、わずか1カ月後だった――かつて規律を重んじたSNBは、時間的一貫性に必要な信頼性を踏みにじった。
「規律も一貫性もない」
SNBの資産がスイスのGDPの約90%に達するなか、この方針転換は、無制限のQEの限界とその影響の双方に深刻な疑問を投げかける。また、ユーロを救うためなら「必要なことは何でもする」というECB総裁マリオ・ドラギの約束のようなものが、根本的にもろいことを改めて思い起こさせる。
QEの時代に、金融政策は規律と一貫性の面影を失った。ドラギが約2年半前の約束を果たそうとするなか、FRBや日銀による同様の保証と同じく、その約束の限界が誰の目にも明らかになる可能性がある。崖っぷちに群がるレミングのように、中央銀行は直面するリスクを否認しているようだ。
本稿は プロジェクト・シンジケートとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味するものではありません。
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著者:スティーブン・S・ローチは、モルガン・スタンレー・アジアの元会長兼同社チーフエコノミストであり、イェール大学ジャクソン・グローバル問題研究所の上席研究員、ならびにイェール大学経営大学院の上級講師。
画像:2014年8月7日、フランクフルトで欧州中央銀行(ECB)の月例記者会見を前に、巨大なユーロのロゴがECB本部の隣に掲げられている。ロイター。


