プルーデンス規制当局は、「大きすぎてつぶせない」グローバル銀行にどう対処すべきでしょうか。この課題への対応では、銀行の破綻処理が重要な要素だと多くの人が考えています(FDIC and Bank of England 2012, Financial Stability Board 2014)。基本的な考え方は、グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)が、劣後長期債または株式の形で「総損失吸収力(TLAC)」を発行すべきだというものです。これらの証券は、破綻処理において損失を吸収し、金融機関を再資本化するために発行され、銀行業務への混乱を最小限に抑え、公的支援に頼らないことを目的とします。
では、こうした破綻処理の枠組みはどのようなものであるべきでしょうか。さらに重要なのは、実際に機能するのかという点です。2014年時点でG-SIBは約30行あり、総エクスポージャーが世界GDPの75%を超えていたことを踏まえると、この問いが大きな意味を持ちます。
グローバルとローカル
最近の研究(Bolton and Oehmke 2018)では、グローバル銀行のクロスボーダー破綻処理における主要なトレードオフを評価する枠組みを提示しています。効果的な破綻処理制度を設計するうえでの最大の難題は、銀行のグローバルな性質と、その処理を担う規制当局の権限が国内に限られていることとの不一致です。
したがって、破綻処理制度を設計する際には、各国規制当局の政治的制約やインセンティブを考慮する必要があります。標準的な企業金融と銀行理論の原則に基づく枠組みを用いて、G-SIBの最上位持株会社を単一の手続きで処理する単一エントリーポイント(SPOE)方式は、原則として効率的であることを示します。この方式は必要なTLACを節約し、グローバル銀行全体を維持します。
しかし、この種のグローバルな破綻処理は、各国の規制当局の利益と常に両立するとは限りません。その場合、グローバル銀行を各国単位で処理する複数エントリーポイント(MPOE)方式のほうが、一般に望ましいといえます。
事前と事後
各国の利害は、事前(破綻処理制度の構築時)にも事後(実際の破綻処理時)にも重要です。事前の観点から見ると、グローバルなSPOE方式では通常、ある法域から別の法域への資金移転が見込まれます。資金を移転する可能性が高い法域の規制当局は、グローバルなSPOE破綻処理の枠組みを構築することに反対する可能性があります。グローバルな破綻処理が効率的であっても、自国法域の結果をより重視する規制当局は、たとえば政治経済上の考慮から、他の法域への移転を制限するため、国内の破綻処理制度を整えることを選好するでしょう。法域間の非対称性は、グローバルなSPOE破綻処理制度の構築を難しくします。これは、EU諸国がEU全域を対象とする預金保険制度を設ける際に直面した課題と似ています。
グローバルなSPOE破綻処理に伴う事後の困難は、おそらくさらに深刻です。各国の規制当局は、破綻処理の実施時に約束を守らないと判断する可能性があります。特に、SPOE方式を成功させるために必要な法域間の資金移転が大きすぎる場合、各国の規制当局は自国法域内の資産を囲い込んで、そうした移転を阻止するでしょう。
これはあらゆる結果の中で最悪であり、2008年のリーマン・ブラザーズ破綻後に起きたのと同様の金融パニックを引き起こすおそれがあります。破綻処理制度の設計では、事後に枠組みが崩れる可能性を考慮する必要があります。規制当局が、グローバルなSPOE破綻処理は事後にインセンティブ整合性を保てないと認識しているなら、MPOE方式を用いて各法域で別々に処理する計画を立てるほうが望ましいでしょう。
どの方式の破綻処理が適切かは、何によって決まるのでしょうか。
グローバルなSPOE破綻処理を成功させられるかどうかは、対象となるグローバル銀行のリスク特性と業務構造によって決まります。
銀行のリスク特性が重要なのは、破綻処理時に必要となる資金移転の規模が、各法域における銀行のキャッシュフローと資産価値の相関関係によって決まるためです。
銀行の業務構造が重要なのは、グローバルな破綻処理に必要な資金を移転する各国規制当局のインセンティブが、各国単位の処理に切り替えて銀行を分割する際にどれほどコストがかかるかによって左右されるためです。
私たちの分析は、信頼できるG-SIBの破綻処理に画一的な方法はないことを示しています。破綻処理では、銀行のリスク構造と、異なる法域間の業務上の補完関係を考慮すべきです。国内単位の破綻処理による分割で失われるような、法域間の大きな業務上の補完関係がある場合、グローバルなSPOE破綻処理は成功しやすくなります。銀行のTLACの一部を、破綻処理の実施前に特定の法域へ割り当てておくハイブリッド方式を採れば、インセンティブ整合性を回復できる場合があります。こうした事前配置は事後の資金移転の必要性を減らし、インセンティブ整合性を回復させますが、破綻処理時に資源を共有するメリットも小さくします。
インセンティブへの影響
採用する破綻処理モデル(SPOEまたはMPOE)が、グローバル銀行内部のインセンティブにどう影響するかも検討します。株式資本には二つの役割があります。外部株式資本(または長期債務)はTLACとして機能しますが、内部株式資本は銀行経営陣のインセンティブにとって重要です。
私たちのモデルは、グローバルなSPOE破綻処理が、グローバル銀行の事業子会社のインセンティブに二つの形で影響することを示しています。MPOEと比べると、ある法域で生じたキャッシュフローが別の法域の損失を埋めるために移転されることがあるため、SPOEはインセンティブを弱めます。一方、SPOEは損失吸収資本を節約するため、銀行がより多くの内部株式持分を維持できる可能性があります。それによって、系列会社の経営者により強いインセンティブを与えられます。グローバルなSPOE破綻処理による分散効果が十分に大きければ、後者のプラス効果が前者を上回るでしょう。



