独占禁止当局は、オンライン販売業者がますます利用する自律型価格設定アルゴリズムが、共謀を学習する可能性を懸念している。本稿では、管理された環境でAIを搭載した価格設定アルゴリズムを用いた実験を行い、比較的単純なアルゴリズムでさえ、洗練された共謀戦略を体系的に学習して実行することを示す。とりわけ懸念されるのは、アルゴリズムが、作動する環境について事前知識を持たず、互いに通信せず、共謀するよう特別に設計されたり指示されたりしていないにもかかわらず、試行錯誤によって共謀を学習する点である。
最後にオンラインで買い物をしたときのことを覚えているだろうか。おそらく、支払った価格を決めたのは人間ではなく、ソフトウェアのアルゴリズムだ。2015年の時点で、Amazon.comの販売業者の3分の1超が自動価格設定を導入しており(Chen et al. 2016)、その割合はその後、確実に上昇している。価格改定ソフトウェア業界が成長し、すぐに使える価格設定システムを提供するようになったことで、最小規模の販売業者でさえ、アルゴリズムによる価格設定を導入できるようになった。
航空会社やホテルなどの企業が長年利用してきた従来型の収益管理システムでは、戦略的な選択の実質的な決定権はプログラマーに残されている。それとは異なり、いま登場しつつある価格設定プログラムは、はるかに「自律的」だ。こうした新しいアルゴリズムは、囲碁やチェスのような複雑な戦略環境で近年、人間を超える成果を上げた人工知能(AI)プログラムと同じ論理を採用している。つまり、プログラマーがアルゴリズムに指示するのは、ゲームに勝つことや、可能な限り高い利益を上げることなど、取り組みの目標だけだ。ゲームの具体的な進め方は教えられず、代わりに経験から学習する。訓練段階では、アルゴリズムはシミュレーション環境で複製体と対戦しながら、別の戦略を積極的に試し、最も良い成果を上げる戦略をより頻繁に採用する。この学習過程で、アルゴリズムが外部から受ける指導はほとんど、あるいはまったく必要ない。学習が完了すると、アルゴリズムは実運用に投入される。
独占禁止の観点から懸念されるのは、こうした自律型価格設定アルゴリズムが、可能な限り高い利益を得るには価格競争を避けるべきだと、それぞれ独自に見いだす可能性があることだ。すなわち、共謀するよう特別に指示されていなくても、また互いに通信していなくても、共謀を学習する可能性がある。これは問題だ。第一に、販売者の観点からの「良好な成果」、つまり高価格は、消費者と経済効率にとって好ましくない。第二に、欧州や米国を含む大半の国では、明示的な意図や意思疎通を伴わない、このような「暗黙の」共謀は、現時点では違法と見なされていない。人間同士では起こりそうになく、仮に起きても検知はほぼ不可能だというのが、その理由である。したがって、従来の通念では、独占禁止法を積極的に執行すると、多くの偽陽性(無実の行為を非難すること)が生じる一方、寛容な政策では偽陰性(反競争的行為を見逃すこと)は比較的少ないと考えられてきた。しかし、AIによる価格設定の登場により、この二種類の誤りのバランスが変わる可能性が懸念されている。これまで、自律的なアルゴリズムによる共謀を示す現実世界の証拠は得られていないものの、¹ 独占禁止当局はこの問題を活発に議論している。²
懸念を示す人々(例:Ezrachi and Stucke 2015)は、AIアルゴリズムはすでに多くの作業で人間を上回る成果を上げており、価格設定だけが例外となる理由は見当たらないと主張する。こうした論者は、独立した価格設定アルゴリズムが繰り返し相互作用するシミュレーションにおいて、競争を損なうほど高い価格がある程度生じることを記録した、コンピューターサイエンスの研究にも言及している。一部の研究者(例:Harrington 2018)は、AIによる共謀を違法とするための道筋を検討している。
懐疑的な論者は、こうしたシミュレーションでは共謀の標準的なモデルが使われておらず、現実の市場を再現できていないと反論する(例:Kuhn and Tadelis 2018、Schwalbe 2018)。³ さらに、反競争的な価格設定の程度は限定的とみられ、そもそも高価格だからといって必ずしも共謀を意味するわけではない。共謀には、企業の行動を調整するための何らかの報奨・処罰の仕組みが必要だからだ。懐疑的な論者によれば、通信を伴わずに真の共謀を実現するのは、人間にとって難題であるだけでなく、最も賢いAIプログラムにとっても難しく、とりわけ経済環境が確率的な場合には困難だ。シミュレーションで見られる価格の上乗せは、アルゴリズムが競争均衡の学習に失敗したためかもしれない。そうであれば、人工知能のさらなる発展に伴い問題はおそらく解消していくため、懸念する理由はほとんどない。
この政策論議に役立てるため、最近の論文(Calvano et al. 2018a)で、私たちはAI価格設定エージェントを構築し、経済学者が用いる共謀の標準モデル、すなわち同時に行動し、価格を完全に柔軟に設定できる反復価格ゲームを再現する管理環境で、エージェント同士を繰り返し相互作用させた。結果から、この枠組みでは比較的単純な価格設定アルゴリズムでさえ、洗練された共謀戦略を体系的に学習して実行することが示唆される。こうした戦略は、逸脱の程度に比例した処罰を有限期間にわたって科し、その後、逸脱前の価格へ徐々に戻る。
図1は、アルゴリズムが自律的に学習して実行する処罰戦略を示している。アルゴリズムが収束した(共謀)価格(灰色の点線)を出発点として、一方のアルゴリズムの選択(赤線)を上書きし、1期間だけ競争価格、すなわちナッシュ価格(オレンジ色の点線)まで価格を引き下げるよう逸脱させる。もう一方のアルゴリズム(青線)は、学習した戦略に従ってプレーを続ける。この期間に外生的な逸脱が起きた後、両方のアルゴリズムが価格設定の制御を取り戻す。
図1逸脱による値下げへの価格反応

図は、その後の期間における価格推移を示している。逸脱はただちに処罰され(赤線の逸脱直後に青線の価格が下がる)、逸脱は利益にならなくなる。ただし、処罰は可能な限り厳しいもの(すなわち競争価格への回帰)ではなく、一時的にとどまる。その後、アルゴリズムは逸脱前の価格へ徐々に戻る。
特に注目すべきなのは、逸脱したアルゴリズムの行動だ。明らかに、相手の行動だけでなく、自らの行動にも反応している。(相手にだけ反応するのであれば、期間t= 2に価格を引き下げる理由はない。相手は期間t= 1に共謀価格を設定しているからだ。)このような自己の行動への反応は、真の共謀を示す明確な兆候であり、それ以外の説明は難しい。
私たちが確認した共謀は、一般に部分的なものだ。アルゴリズムは独占価格ではなく、それよりやや低い価格に収束する。しかし、共謀傾向は根強く、活動企業が3社または4社の場合、企業間に非対称性がある場合、さらには確率的な環境で事業を行う場合でも、相当程度の共謀が続くことを示した。これに対して、人間を対象とする実験研究では、対称的なエージェントが2つで不確実性がないという最も単純な場合を除き、明示的な意思疎通なしに協調することは事実上できないと、一貫して示されてきた。
最も懸念されるのは、アルゴリズムが協調行為の痕跡を残さないことだ。作動する環境について事前知識を持たず、互いに通信せず、共謀するよう特別に設計されたり指示されたりしていないにもかかわらず、純粋に試行錯誤によって共謀を学習する。これは競争政策にとって現実的な課題となる。政策措置を検討する前にさらなる研究が必要だが、独占禁止当局が注意を呼びかけるのは十分な根拠があるように思われる。



