新たな報告書がオーストラリア科学アカデミーから発表され、細菌の抗生物質耐性の高まり、すなわち薬剤耐性と呼ばれる問題に対処するため、オーストラリア政府に早急な行動を求めた。報告書は特に、研究資金の不足、食品表示、分野間の連携への対応を重視している。
抗微生物薬とは、微生物(細菌、ウイルス、真菌)が引き起こす感染症を治療する薬剤である。薬剤耐性は、微生物が進化して、抗微生物薬にさらされても生き延びるようになることで生じる。つまり、細菌感染症の治療のために服用する抗生物質が効かなくなる可能性がある。
抗微生物薬が不必要に使用されると、薬剤耐性の拡大が加速する(たとえば、ウイルス感染症に抗生物質が処方されたり、農業で成長促進剤として使われたりする場合や、使用が適切に管理されていない場合など)。
薬が効かなくなると、何が起こるのか?
今年1月、ある女性が股関節骨折の後、米国で細菌感染症により死亡した。彼女は、既知のすべての抗生物質に耐性を持ち、治療できない感染症を発症した。これは、薬剤耐性が歯止めなく広がる世界がどのようなものになり得るかを示す一例にすぎない。対策を講じなければ、有効な抗微生物薬が失われることで、2050年までに年間1,000万人が命を落とし、100兆米ドル(132兆豪ドル)の損失が生じると予測されている。
抗微生物薬がなければ、克服したと思われていた感染症で再び命を落とす危険がある。また、股関節置換術や帝王切開などの一般的な医療処置を安全に行えなくなったり、がん患者に化学療法を施せなくなったりする可能性も高い。こうした処置や治療では、感染症の予防や治療のために抗生物質を併用することが多いためだ。
解決策は何か?
薬剤耐性は複雑な問題であり、複数の分野が関わっている。薬剤耐性の原因となり、その影響を受けるのは、人、動物、環境の健康に関わる各分野である。
人、動物、環境の健康に関わる各分野では、処方者、使用者、規制当局が、抗微生物薬の使用と薬剤耐性に影響を及ぼしている。処方者といえば一般開業医を思い浮かべがちだが、このグループには、地域社会、病院、介護施設で働くすべての医師、歯科医師、薬剤師、獣医師、ナースプラクティショナーが含まれる。
同様に、抗微生物薬を使うのは患者だけではない。農家やペットの飼い主も使用者に含まれる。通常、抗微生物薬の規制は地方政府や国の政府が担うが、薬剤耐性は世界的な問題であるため、各国政府や国際機関の取り組みも重要だ。
薬剤耐性に対処するには、人、動物、環境の健康に関わる各分野の抗微生物薬の処方者、使用者、規制当局が協力しなければならない。いずれか一つのグループによる単独の取り組みでは不十分だからだ。そのため、解決策を実行に移すことは非常に難しい。
薬剤耐性への対応については、政府や保健機関が多くの文書を発表してきた。共通するメッセージは、現在使われている抗微生物薬を温存するために、その使用を減らす必要があるということだ。具体的には、ワクチン接種、衛生設備、良好な衛生習慣を通じて感染を予防・抑制すること、効かなくなった薬剤に代わる新たな抗微生物薬を開発すること、薬剤耐性に関する教育を改善すること、耐性菌による感染症や抗微生物薬の使用状況の監視を拡充して問題の実態を把握することが挙げられる。
報告書の提言
オーストラリア政府は、同様の目標を第一次国家薬剤耐性対策戦略(2015~2019年)で示している。オーストラリア科学アカデミーのシンクタンク報告書は、これらの目標の一つ以上を前進させ、見過ごされがちな重要分野を検討するための具体策を求めた。報告書の提言は次のとおり。
1. 薬剤耐性に関する分野横断的な研究に資金を提供する
分野間の研究を妨げている現在の障壁を取り除く必要がある。これには、分野をまたぐ研究連携が助成金を得にくいという問題も含まれる。
2. 抗微生物薬の使用と需要の変化を調整する国家機関を設置する
薬剤耐性対策プログラムは、州や準州をまたいで一貫していなければならない。そのためには、中央機関による統一的な監督が必要だ。
3. 薬剤耐性における人や動物の排せつ物の役割を明らかにする
環境汚染が耐性微生物の出現にどう関与するのか、食料と水の安全保障にどのような影響を及ぼすのか、医療現場で抗微生物薬がどの程度有効なのかについては、多くの不確実性が残っている。
4. 食品生産での抗生物質使用を表示する
抗微生物薬の使用方法(動物の健康以外を目的とする場合)を表示することで、医療以外での抗微生物薬の使用について消費者の理解を促し、十分な情報に基づいて判断できるようにする。
治療できない感染症は今後も増加し、最も弱い立場にある人々がまず影響を受けるだろう。これらの提言はオーストラリア政府の戦略を後押しし、薬剤耐性への解決策を見つけて実行するための貴重な時間を確保するのに役立つ。



