テクノロジーは今後も、世界の繁栄を促進するうえで重要な役割を果たすでしょう。新たな進歩は、経済生産性の向上、医療における革新的な解決策の提供、気候変動への対処など、さまざまな恩恵をもたらす見込みです。
しかし、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、バイオテクノロジーなどの分野でイノベーションが加速していることは、新たなリスクも生み出しています。地政学的緊張、ナショナリズム、社会不安が高まる世界では、そうしたリスクが増幅されるでしょう。企業は、変化する世界的なリスク情勢を踏まえて、技術革新に伴う脅威を検討する必要があります。
新技術、新たなリスク
重要インフラの妨害から米国大統領選挙への介入まで、さまざまな目的を持つ注目度の高いサイバー攻撃が最近相次ぎ、公共分野におけるセキュリティとガバナンスの強化策の必要性への関心が高まっています。技術の進歩は産業スパイ活動の大幅な増加も促しており、国家が支援するサイバー技術の利用が広がる時代には、さらに増加する可能性があります。一方、ならず者国家やテロリストによるAIやロボットの将来的な兵器化、そして世界の衛星システムがハッキングされる可能性も、セキュリティ専門家が注視しています。

企業はイノベーションを取り入れる一方で、新たなリスクも引き受けます。企業は新たなリスクへの露出を生むテクノロジーを購入・導入しているだけでなく、自社のITシステムを、サプライヤー、顧客、公益事業者などバリューチェーン上の他社のシステムとますます接続しています。さらに、生産性の向上や安全性の強化を目的に、IoT機器の導入も増えています。多くの場合、セキュリティが十分でない機器によって促進されるこの相互接続の拡大は、サイバー攻撃に対する脆弱性の入口を増やし、リスクの組み合わせを評価することを一層難しくしています。
データやソフトウェアのクラウドへの移行、商業用途におけるAIやロボットの利用など、技術分野におけるその他のイノベーションも、サイバーリスクの性質を変化させています。同時に、イノベーションを導入する企業は、従来からの契約を通じて、法的先例がまだほとんどない分野で新たな責任を負う可能性があります。また、保険市場に移転したり軽減したりするのが難しい脆弱性も抱えることになります。
デジタル面の制約
政府の介入が増えるなか、国境を越えるデータの流れが滞っています。措置のなかには、消費者保護を目的とするものがあります。たとえば、欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GPDR)は、主に個人データのプライバシーへの懸念を背景にしています。ほかの取り組みは、国家安全保障上の懸念の高まりを受け、国家の保護を目的としています。こうした措置は、過度に厳しい技術基準、検閲、監視、データの国内保存義務など、さまざまな保護主義的政策を推進しています。たとえば中国は、外国企業に対し国内で情報を保管するよう求める要件を厳格化する動きで、ロシアに加わりました。規制の強化は企業活動の環境を複雑にし、「スプリンターネット」化の傾向を助長しています。
こうした傾向は、企業にとって大きな課題となる可能性があります。新たな規制への対応には多額の費用がかかることがあり、違反すれば重い制裁を受ける可能性があります。デジタルのサプライチェーンや市場へのアクセスが制限されれば、世界規模で事業を展開する企業は複雑な対応を迫られます。ナショナリズムが高まる時代において、この方向性は開かれた世界的な競争を脅かしかねません。

将来の労働力を考える
企業は、仕事そのものの性質に生じる本質的な変化と、雇用の将来にも対応する必要があります。工場の組立作業員から、財務事務職やアナリスト、介護従事者まで、幅広い職種で技術の進歩が生産性を加速させるという見方が広く共有されています。新興市場国への影響は最終的により深刻になる可能性があるものの、この変化は先進国でより速く進むでしょう。

こうした変化が、失業への懸念が大きく、低所得層の社会不安も高まる時期に起きていることから、企業は、政治や世論の観点から受け入れられると見なされる事業戦略や雇用戦略に沿うよう、圧力を一層強く受ける可能性があります。同時に企業は、デジタル戦略を策定し実行するための技術的知識とリーダーシップ経験を備えた人材をめぐり、激しい獲得競争に直面しています。現在の人材供給と需要のずれを受け、企業は既存従業員の再訓練にこれまで以上に注力し、成長の鍵となる分野のスキルを育成する必要があります。
技術革新は、企業の事業運営や競争のあり方を変えています。そこから生まれる機会を捉えるには、経営リーダーが今後直面する相互に関連した課題の深さと広がりをよりよく理解し、それらに対処する計画を策定する必要があります。



