比較的弱い経済成長見通し、とりわけ新興国・途上国(EMDE)の見通しは、一部の国々が現在直面している金融上の課題を考えるうえで重要な背景となる。
市場ではさまざまな懸念を背景に、最近、金融市場の変動が再び高まった。主な懸念としては、超低金利からの米連邦準備制度理事会(FRB)の出口経路に対する見方の変化と米ドルの急速な上昇、欧州中央銀行による量的緩和の開始とインフレ期待および債券市場への影響、原油価格の低迷と変動、中国の成長減速・追加景気刺激策・金融セクターの課題、新ギリシャ政府と債権者の対立、そして続く地政学的混乱が挙げられる。
こうした状況のもと、EMDEは相互に関連する6つの金融上の課題に直面している。ただし、国によって大きな違いがあることに留意する必要がある。
第一:先進国で異例の金融政策(EMP)が長期化し、各国が異なるタイミングで政策を終了する見通しは、世界の金融市場に幅広い課題をもたらす。 先進国のEMPは、政策当局が経済成長の再活性化とディスインフレ圧力への対処を目指すなか、超低金利の環境を生み出した。主なリスクは3つある。
低金利と過度なリスクテイク は、資産評価の著しい上昇、リスクスプレッドとタームプレミアムの縮小をもたらし、ノンバンク部門の成長を促して、レバレッジ、流動性の低さ、担保不足を押し上げた。これにより金融システムはショックにさらされる。リスクの価格付けが弱まり、「流動性の幻想」が生じた結果、世界的な波及を伴う景気循環増幅的な「投げ売り」のリスクが高まっている。
市場の期待が急変したり、米連邦準備制度理事会(FRB)の 正常金利への移行経路が不安定になったりすれば、通貨・株式・資本フロー市場で変動が誘発される可能性がある。これは、FRBが資産購入の縮小を公然と検討した2013年の「テーパー・タントラム」に似た事態となり得る。
先進国における中央銀行政策の 乖離は、すでに通貨市場、とりわけユーロ・ドル相場に大きな影響を及ぼしている。政策の乖離は相互干渉や意思疎通の行き違いのリスクを生み、新たな世界的金融市場の変動を引き起こしかねない。
EMDEへの直接的な影響は4つある。
EMPの終了は国際的な資金調達環境を引き締め、 EMDEの通貨、バランスシート、資金調達能力に混乱をもたらす可能性がある。2013年の「テーパー・タントラム」は、EMPをめぐる期待の変化が重要であることを示した。
FRBの出口が予想されたことで、EMDE通貨に圧力がかかった。 米ドルの上昇に伴い、特に石油輸出国のEMDE通貨は大幅に下落した。
世界的な金利の正常化はEMDEの金融政策に影響する。 EMDEの一部の中央銀行は、資本フロー、外貨準備、通貨を管理するための利上げと、経済成長を損なわないこととのバランスを取る必要がある。
EMPは「近隣窮乏化」型の通貨摩擦を引き起こす可能性がある。EMPは通貨安と結び付いており、特に国内需要がすでに弱い場合、競争力の低下を避けようとする他の中央銀行の金融緩和を誘発しかねない。これにより不確実性と変動がさらに高まる。
第二:EMDEの対外債務エクスポージャーは過去最高に達し、一部のEMDEはショックに対してより脆弱になっている。 2009年以降、先進国市場から利回りを求める大規模な資金フローがEMDEに流入したが、その一因はEMPだった。その結果、現在、ポートフォリオ投資家は4兆ドル超、投資額の13%をEMDEに配分している。これは単一の地域や国によるものではなく、幅広い傾向である。危機後6年間の累積発行額は、 中央値の EMDEでGDPの6.7%となり、危機前6年間の4.3%から増加した。同時に、先進国市場からEMDEへの債券ファンド配分は2009年以降ほぼ4倍の3,850億ドルに、株式ファンド配分は70%増の9,850億ドルになり、一部の現地債券市場では発行残高に占める外国人投資家の参加比率が26%に上昇した。特に重要な課題は4つある。
利回りを求める大規模な資金流入は、EMDEの金融システムに新たな脆弱性をもたらしたり、既存の脆弱性を悪化させたりした可能性がある。 それにより、持続不可能となり得る金融のフィードバック・ループが生じたためだ。このループは短期的な経済成長をもたらす一方、通貨に圧力をかけ、国内の信用循環や金融政策を妨げ、シャドーバンキングのリスクを生み、資産価格をゆがめ、構造改革へのインセンティブに影響する可能性がある。
米ドルが最近、 ほとんどのEMDE通貨に対して急速に上昇していることも、もう一つのリスク要因だ。対外債務の大半は外貨建てであるため、これはEMDEの対外債務の持続可能性に影響する。
先進国市場の資産運用業界における脆弱性の波及。EMDEへのファンド配分は大幅に増加した。利回りを求める環境のなかで、同業界は流動性の低いエクスポージャーを拡大し、一部ではレバレッジも利用した。一方、ファンド投資家は通常、短期間で投資を償還できると期待している。そのため、最悪の場合、こうした流動性のミスマッチが投げ売りの連鎖を招くおそれがある。投資家が一斉に退出して価格を下落させるもので、例えば金利の上昇(または上昇への懸念)が引き金となり得る。他市場や国境を越えた波及効果は、EMDEの資産価格や資金調達コストに直接影響する可能性がある。
EMDEの脆弱性は、発展途上にある金融面の枠組みによってさらに強まる。 その枠組みには、規模の小さい国内金融市場、強力な制度・監督・監視能力の不足、技術的経験や(マクロ)プルーデンス政策の手段の不足が含まれる。
第三:原油価格の下落と変動性の高まりは、EMDEに勝者と敗者を生み、金融市場や資金フローにも影響する。 原油価格は2014年夏の1バレル当たり100ドル超から、2015年初めには約50ドルに下落した。石油輸出国から輸入国への富の移転は、年間約7,500億ドルに達する可能性がある。原油安が続けば、純輸入国ではバランスシートと所得の状況が改善し、インフレ率の低下によって中央銀行の政策余地が広がるため、消費、投資、対外収支が押し上げられる。純輸出国では逆のことが起こる。価格変動は債務の持続可能性を損なうため、各国のジレンマをさらに深刻にする。石油輸出国の脆弱性は、対外収支、為替制度、外国債権者に対するエクスポージャーの種類、全体的な公的債務の状況、国内銀行・市場の強さによって異なる。
第四:世界的なリバランスの過程で世界の総需要が弱まり、世界的な資金調達パターンや成長見通しに混乱をもたらす可能性がある。 2008年以前には、世界の貯蓄・投資動向のゆがみが経常収支の不均衡を過去最高水準に押し上げ、持続不可能な国境を越える資金調達パターンを引き起こした。危機後、不均衡は縮小したが、その代償として赤字国では需要が圧縮され、黒字国ではそれを補う動きがほとんどなかった。この調整の形態は、インフレ率の低下、失業率の上昇、世界貿易の減速と貿易摩擦の高まり、成長実績と見通しの悪化に寄与した。実際、ディスインフレ圧力は世界規模で明らかになっている。世界的な需要不足は、一部のEMDEから外部の成長要因と、対外債務の返済に役立つ外貨の供給源を奪う。世界のストック不均衡(すなわちGDP比の対外純負債)が拡大し続けているなか、これは重要な問題であり、対外金融の脆弱性を高める要因となる。こうした状況では、黒字国がEMPを実施して通貨を下落させ、黒字をさらに拡大することで、世界的不均衡が再び拡大する可能性がある。
第五:世界の債務水準の高さは秩序ある債務削減の妨げとなり、低成長とディスインフレ圧力を悪化させる。 先進国・新興国市場の公的・民間債務総額は、2013年にGDP比212%へと増加を続けた(金融部門を除く)。2008年以降、38パーセントポイント上昇したことになる。危機後のレバレッジ拡大の大半は、成長を支えるために債務で賄う反循環的措置を独自に進めたEMDEで生じた。世界の債務水準がこれほど高いと、幅広い経済行動やインセンティブに悪影響を及ぼす債務過剰の影響が生じる可能性がある。その結果、債務の持続可能性への懸念が名目経済成長を損ない、デフレ圧力を生むというフィードバック・ループが生じ、さらにそれが債務の持続可能性への疑念を強めるおそれがある。
第六:続く地政学的リスクや固有のリスクは、 世界の金融市場の変動が急上昇する引き金となり得る波及上の課題をもたらす。 中東の混乱とロシア・ウクライナ危機は、地政学的な変動をもたらす主要因である。地域への波及に加え、世界のエネルギー市場の混乱を招き、金融市場のリスク回避姿勢を強める可能性がある。ギリシャをめぐる緊張と欧州通貨同盟の将来をめぐる緊張も、最近高まっている。
こうした相互に関連する金融上の課題は、比較的弱い経済成長見通しをさらに悪化させ、新興国・途上国(EMDE)に逆風をもたらし続けている。
参考文献
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Turner, P. (2014).「世界の長期金利、金融リスク、政策選択」、『BIS Working Paper 441』。
この記事は当初、 世界銀行の民間セクター開発ブログ に掲載された。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しない。
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著者:Erik Feyenは、世界銀行グループのFinance & Markets Global Practiceの主任金融エコノミスト。
画像:パリ郊外クールブヴォアにあるフランス企業の本社を望む。REUTERS。


