あらゆる業界で、テクノロジーの進展を受けてビジネスモデルが急速に進化しています。それによって、業務効率の向上、まったく新しいサービスやビジネスモデルの開発、新たな顧客へのサービス提供に大きな機会が生まれています。同時に、サプライヤーとの関係から製品・サービスの提供、顧客との関係に至るまで、事業のあらゆる側面に関わる新たなリスクも生じています。
「私たちが今経験しているのは、産業革命に匹敵する規模の情報化時代の始まりです」と、Zurich Insurance GroupのE-Solutions担当バイスプレジデント、Larry Collins氏は言います。「しかし、それはビジネスの中で、ごくありふれた形で活用されるようになるでしょう。」
革新を担う企業は、テクノロジーを活用して利便性、スピード、即時の満足感、コスト削減を重視し、なじみのあるビジネスモデルを作り変えるとともに、競合他社から市場シェアを奪っています。
これにより、小規模で機動力のある企業は、大規模な競合他社に対して比較優位を得られる可能性があります。しかし、大手と競争するためにテクノロジーを活用することがかつてないほど容易かつ安価になったにもかかわらず、それを十分に活用している中小企業(SME)はほとんどありません。
「どのようなビジネスモデルであっても、テクノロジーによってサービスの質を高める方法は必ずあります」と、英国プリマス大学Futures Entrepreneurship Centreの副所長、Paul Jones氏は言います。しかし、企業の規模が小さいほど、すぐに効果が得られる日々の業務機能にテクノロジーを適用する傾向が強くなります。長期戦略への注力が不足しているため、英国の小規模企業の70%は成長せず、最終的に事業を閉じるまで同じ規模にとどまると同氏は述べています。
デジタル革命はリスクも高めます。まず、テクノロジーの動向に追いつかないなど、機会を逃すこと自体がリスクです。ウェブサイトを持たない企業は顧客から身を隠し、売上を伸ばす機会を逃しているとJones博士は言います。EUの中小企業を対象とした調査によれば、顧客の獲得は中小企業にとって最大の課題であり、これは重要な点です。McKinseyによる別の調査では、ウェブテクノロジーを活用する中小企業は、インターネットをほとんど利用しない企業と比べ、成長率が2倍で、総売上に占める輸出収入の割合も2倍、創出した雇用数も2倍でした。
もう一つのリスクは、タイミングやテクノロジーの選択を誤ることです。性急に行動する企業は、誤った技術の流行に飛びつくだけでなく、テクノロジーを事業に役立てる方法や有効に統合する方法を十分に検討できないリスクもあります、とJones博士は言います。小規模な組織では、主要な人材が複数の業務を兼任しがちで、新技術の導入に本来求められるほど効果的に取り組めないことがあります。
サイバーセキュリティは、おそらく最大のリスクです。知識が最も強力な通貨であり、あらゆるものがネットワークにつながりオンライン化した世界では、知的財産は価値が高く、盗まれやすいものです。「オンラインにあれば、ハッキングされる可能性があります」とCollins氏は言います。
アイルランド、キルデア州のメイヌース大学にあるInnovation Value Instituteのゼネラルマネジャー兼テクノロジーリーダー、Martin Delaney氏も同意します。「組織全体にテクノロジーが広がるほど、セキュリティとサイバーリスクの側面を管理しないことによる組織上のリスクは大きくなります」と同氏は言います。ITを部門ごとに切り離すのではなく、すべての部門に統合すべきですが、サイバーリスクを管理する中央IT部門と最高セキュリティ責任者の役割は依然としてあります。
企業が気づかない形で、リスクは相互に絡み合っています。オンライン販売をしないことでサイバーリスクを避けようとする中小企業は、実店舗に行くのが不便な顧客を逃しています。また、別の理由でコンピューターがオンラインになっていれば、サイバー攻撃のリスクもあります。誤ったテクノロジーへの投資は、支出としてコストがかかるだけでなく、生産の中断や顧客からの苦情につながれば、売上にも悪影響を及ぼしかねません。
では、企業はデジタル革命の中でどのように成功できるのでしょうか。
1. 新技術では、最先端を目指し、無謀な先陣は切らない。「一番乗りを目指す必要はありません。失敗する技術もありますし、いったん失敗してから復活する技術もあります」とCollins氏は言います。「最も早い採用者になる必要はありませんが、早い段階で導入すれば、コスト削減、市場拡大、利益率の向上という競争優位につながります。」
2. 基本から始め、成長を実現するための3段階のアプローチを取る。まず、「何に費用がかかっているかを確認し、コストを削減するテクノロジーを見つけるか、開発します。次に、自社の市場を水平方向にどう拡大できるかを考えます。市場に参入するための費用を大幅に増やさずに、自社製品の新しい用途をどう見つけられるでしょうか。テクノロジーが役立ちます」とCollins氏は言います。第三に、同じ素材でほかにどのような製品を作れるか、垂直方向に検討します。特に、価格の影響を受けにくい知識集約型のニッチ市場に参入できる場合は有効です。成長できず、最終的に廃業する企業は、最初の段階を決して越えられない企業です。
3. 最新のソフトウェアやガジェットではなく、広範なテーマに目を向ける。もちろん、競合他社より大幅に遅れて知ることのないよう、社内の誰かが技術の進展を注視する必要があります。しかし、追いつこうとすることにはまり込みやすく、テクノロジーはあまりに急速に変化するため、勝ちにくい競争になりがちです。そうではなく、モビリティや、どこにいても顧客に届く能力、利便性を高める能力といった大きなテーマを検討しましょう。あるいは、持続可能性や、環境配慮型製品を求める顧客の嗜好と新たな規制の両方に応える能力にも目を向けます。
「企業が犯す間違いは、テクノロジーが答えだと思い込むことです」とCollins氏は言います。「テクノロジーは答えを可能にするにすぎません。答えとは、人々が周囲の世界とどのように関わり、反応するかということです。顧客が今は必要だと気づいていなくても、テクノロジーは顧客の要求やニーズを支えなければなりません。インターネットが登場するまで、顧客はそれが何かを知りませんでした。登場すると、なくてはならないものになったのです。」成熟経済における2006-2011年の経済成長のうち、21%はインターネットによるものと推計されています。
変化は急速に起こることがあります。デジタル音楽は、コンパクトディスクの売上をすぐに抑制しました。Blockbuster Videoは10年前には9,000店舗を展開していましたが、破産し、Dish Network Corp.に買収された後は、わずかな店舗を残すのみとなり、映画のストリーミング配信に乗り出しています。10年前、Twitterは創設されたばかりで、スマートフォンはまだ知られていませんでした。昨年時点では、2日ごとに10億件のツイートが送信され、スマートフォンは約10億台販売されました。デジタル革命は、従来型の実物を扱う業界にも及んでいます。Uberはタクシー業界を揺さぶり、Airbnbはホテル業界を揺さぶっています。
今後を見据え、Collins氏は、企業が顧客の工場で部品を次々と製造し、ジャストインタイムで供給するために使い始めている3Dプリンターを例に挙げます。プリンターには、機械を監督し保守を行う技術者が必要かもしれませんが、流通などのコストはなくなります。「これは産業界から始まりますが、消費者経済にまで広げられるかが問題です。テーブルや椅子を印刷できますか。シャツを印刷できますか」と同氏は言います。「店舗は流通ネットワークとして機能するため、しばらくは残るでしょう。」
4. テクノロジーの価値は、それを使う人材の能力次第である。「事業のIT部門は経営陣に近い位置にある必要があり、IT部門の中に閉じ込めておくべきではありません」とDelaney氏は言います。同氏は、データ分析ソフトウェアへの投資にマーケティングディレクターが不満を抱いていた企業の例を挙げます。IVIは、問題はソフトウェアやITチームではなく、分析の方法を理解していなかったマーケティング部門にあると結論づけました。マーケティング部門で少額の研修と採用への投資を行い、問題は解決しました。この事例は、ITと分析が、従来は無関係と考えられてきた分野にも入り込めることを示しています。Oxford EconomicsがSAPのために実施した中小企業の世界調査でも、SMEの32%が、データ分析に関する社内スキルの育成を大きな課題と捉えていました。
5. テクノロジーに関する自社の能力を総合的に捉える。企業には、ITの事業価値、財務管理、リーダーシップとガバナンス、調達、エンタープライズアーキテクチャを扱う能力が必要です。「弱い部分が一つでもあれば、勝てません」とDelaney氏は言います。企業によっては、必要な能力をすべて備える余裕がないかもしれません。「中規模企業ならエンタープライズアーキテクチャは省けるでしょうが、リーダーシップとガバナンスは必要です。」
適切に活用すれば、テクノロジーは中小企業にとって大きな贈り物です。小規模企業には潤沢な資金や大規模なITスタッフがないかもしれませんが、効率を高め、コストを削減し、顧客サービスを促進し、新市場に進出し、あるいはビジネスモデルを根本から変えるための既製テクノロジーを購入することは、かつてないほど安価で容易になっています。
「デジタル革命は中小規模の組織にとって贈り物です」とDelaney氏は言います。「大企業にはより大きな課題です。変化のスピードが遅く、慣性があるからです。小規模企業ははるかに迅速に動けますし、テクノロジーを活用するために、わずか10年前まで必要だったような大規模なコストインフラも要りません。これから登場する次のテクノロジーの話ではありません。組織が、そのテクノロジーを自社内でどのように導入し、活用するかを理解するための本来備わった能力の話です。」
中小企業にとっての課題は、もはやテクノロジーそのものではなく、成長のためにそれを戦略的に活用する企業リーダーの創造性と意欲です。
Zurich Knowledge Hubとの共同企画 Zurich Knowledge Hub
著者:Catherine Bolgar氏は、The Wall Street Journalで編集者を12年間務めました。2年前に同紙を退職し、家族とともに南フランスへ移住して以来、フリーランスライターとして活動しています。
画像:2014年4月19日、ブリスベンで英国のウィリアム王子と妻のキャサリン妃(ケンブリッジ公爵夫人)が沿道を歩く様子を、一般の人々がモバイル端末で撮影している。REUTERS/Phil Noble


