サイバー犯罪が一つの国だとすれば、世界有数の経済規模を持つことになり、世界中の非常に多くの人々に影響を及ぼしていることになります。
しかし、気候変動やジェンダー平等といった大義とは異なり、若い世代はサイバーセキュリティを強化するために結集していません。
人々が関心を寄せ、運動を展開しているその他多くの大義を、サイバーセキュリティが支えていることに光を当てれば、状況は変わるかもしれません。
若い世代は、気候変動対策からジェンダー平等やメンタルヘルスに至るまで、さまざまな大義の擁護の最前線に立っています。しかし、社会的な課題としてのサイバーセキュリティの下には結集していません。
これらはいずれも、集団的な行動を必要とする課題です。それでは、なぜ若い世代は他の大義と同じようにサイバーセキュリティを求める声を上げていないのでしょうか。そして、その状況を変えるために私たちに何ができるのでしょうか。
サイバーセキュリティは、経済、政府、そして私たちの地域社会の安定を守っています。サイバー犯罪が一つの国だとすれば、その国は最大級の経済規模を持つことになるでしょう。
サイバーセキュリティは、気候変動の危機と多くの共通点があります。どちらも体系的なリスクであり、一方は地球の安全を、もう一方はデジタル生活の安全を脅かします。また、「世界経済フォーラム『グローバルリスク報告書2024』」によると、どちらも現在の上位5つのリスク、さらに2年および10年の期間にわたる上位10のリスクに継続して挙げられています。世界経済フォーラム『グローバルリスク報告書2024』。
サイバーセキュリティに光を当てる
世界経済フォーラム年次総会2024で、若い世代の頭の中でサイバーセキュリティが上位に来ない理由を尋ねたところ、40以上の国から集まった若い変革の担い手たちは、サイバーセキュリティは�らえどころがなく、利用しにくく、不便だと答えました。
サイバーセキュリティには、山火事や洪水のような鮮烈な映像は伴わないかもしれませんが、これらのデジタル上の山火事は現実世界に深刻な影響をもたらしています。例えば、2023年にはアメリカ合衆国だけで、少なくとも141の病院がランサムウェア攻撃の直接的な被害を受け、医療提供能力に影響が出ました。
サイバーセキュリティは今日の若い世代にとって主要な社会課題ではないかもしれませんが、統計によると、この世代は、SNSアカウントの乗っ取り、フィッシング、個人情報の盗用、サイバーいじめの被害率が高いと報告しています。若い世代、いわゆるデジタルネイティブは技術に精通しているため、サイバーセキュリティにも精通しているはずだという誤解があります。しかし、これは根拠のない同一視です。私たちは、配車サービスや食品配達が指先ひとつで利用できる、ますます摩擦のない世界に生きています。デジタル機器との この洗練された結びつきにより、人々はセキュリティより利便性を選ぶことがあります。リスク許容度が高まると、その結果として無関心につながることがあります。
しかし、サイバーセキュリティを求める責任を個々の利用者に負わせるべきではありません。公的機関、民間企業、地域社会の関係者すべてにわたる集団的な行動が必要です。若い世代には、限られた時間を割いて行動を起こしてもらう必要があります。サイバーセキュリティは抽象的に思えるかもしれませんが、その切迫感を私たちは根付かせなければなりません。
サイバーセキュリティと、それに関わる複合的な課題
サイバーセキュリティをより身近で切実なものにするためには、若い世代がすでに深く関心を寄せている社会的な大義と、意識的かつ感情的に結びつけなければなりません。それは、彼らがすでに使っている言葉で、有意義なレベルに落とし込むことを意味します。また、サイバーセキュリティを単に相殺すべきリスクとしてだけでなく、これらの社会課題を支える基盤として位置づける必要があります。
気候変動の危機とサイバーセキュリティ
気候変動の危機から始めると、持続可能な未来には、サイバーセキュリティが確保された未来が必要です。水処理施設など、危険物質を扱う産業システムへのサイバー攻撃は、環境災害を引き起こす可能性があります。こうしたシステムに加え、デジタル化されたグリーンテクノロジーの普及によって、保護すべき新たな種類の技術も生まれています。グリーンデジタルソリューションの進歩には、ソフトウェア定義型の電力網、効率的なエネルギー消費を監視するセンサー、電気自動車の充電ステーションなどが含まれます。これらは相互接続され統合されたデバイスであることが多く、システムレベルの脆弱性を生み出す可能性があります。これらのグリーンテクノロジーの開発が導入されるスピードが、サイバーセキュリティなどの他の考慮事項よりも機能が優先されるリスクにつながっています。
気候変動対策の最前線に立つ若い世代にとって、新たなグリーンテクノロジー、そのサプライチェーン、環境データの共有にサイバーセキュリティを組み込むことは、持続可能性を二つの意味で実現する助けになります。すなわち、環境への害を減らすことと、これらの技術そのものが長く使え、目的を確実に果たすように構築されることです。
ジェンダー平等とサイバーセキュリティ
若い世代が推進しているもう一つの議論は、ジェンダー平等です。オフラインのジェンダー不平等は、オンラインのジェンダー不平等へとつながり、テクノロジーは しばしば既存の不平等を固定化する新たな経路を生み出します。チャタムハウスのツールキット「サイバー能力構築へのジェンダーの統合」は、こうした事例をいくつか挙げています。公共サービスのシステムが途絶すると、女性の医療サービスへのアクセスが妨げられる可能性があります。また、人工的に生成された露骨な画像の実例も最近見られましたが、その影響は女性や社会的に疎外された集団にとって最も深刻です。
したがって、ジェンダー平等を擁護する若い世代にとって、安全なデジタル環境を構築することは、女性がデジタル空間(ひいては物理空間)に参加するための安全な場を生み出し、新たな技術の利用を妨げられないようにすることにつながります。
メンタルヘルスとサイバーセキュリティ
サイバーセキュリティの管理策は、メンタルヘルスへの害を最小限に抑えながら、デジタル技術の機会を最大限に生かす助けにもなります。オーストラリア・メンタルヘルス委員会による2023年の報告書は、うつ病、不安、自傷行為、自己肯定感の低さ、孤独感がいずれもオンラインいじめと関連していることを明らかにしています。既存のメンタルヘルスの問題を抱える人は、いじめの標的になりやすい傾向があります。さらに、この研究では、アルゴリズムや推奨システムによって、若い世代が有害で信頼性の低いコンテンツに触れる可能性が高まり、心理的な苦痛につながる場合があることも示されています。
メンタルヘルス擁護に取り組む若い世代にとって、オンラインプラットフォームにおけるサイバーセキュリティとプライバシー重視の機能への投資を求めることは、利用者が自らの主導権を取り戻す助けになります。具体的には、コメントや再投稿の制限、利用者を閲覧または やり取りできる人の範囲を限定する設定、利用者をブロックしたり通報したりする機能などが挙げられます。
若い世代は、多くの社会課題の未来を形づくる上で重要な役割を担っています。サイバーセキュリティは、重要インフラを守る手段として、またより包摂的な社会を築く手段として、その役割を支えています。それ自体が目的を持つ大義であり、私たちのグローバル・コミュニティの基盤を支える要石なのです。
