デジタル不信、つまりデジタルツールへの信頼の欠如は、深刻化し、さらに広がっています。
パンデミック後のグレート・リセットをめぐって、復興にどのようなテクノロジーを使うのかという問いが浮上するでしょう。
新型コロナ危機におけるデジタル技術の活用から、明確な教訓が得られます。不可欠な組織の安全に注力すること、在宅勤務を可能にする環境を守ること、そして危機に関連する特定の技術を活用できるよう、不信感に幅広く対処することです。
パンデミック後にデジタルツールとイノベーションを活用して「再建」する計画は、最初の難関でつまずくおそれがあります。私たちの大半が、作り手にも、作られるものにも信頼を寄せていないからです。
デジタルへの信頼の基盤は、安全性と責任です。人々を守るためのツールとルールが必要です。しかし、デジタル技術や、それを管理する企業への不信感は、深刻化し、さらに広がっています。また歴史を見れば、新しいテクノロジーはあまりにも頻繁に、利用者や開発者に害を及ぼし、それを支配する一握りの人々を富ませてきました。
デジタルへの信頼が欠如する根本原因に対処し、それを築く方法を見つけなければ、現在の新型コロナ危機を乗り越える変革を実現するのは難しいでしょう。
マーク・アンドリーセンの「今こそ建設のとき」という主張に見られるような、ただちに再開して「再び建設を始める」べきだという要求は、問題を見誤っています。私たちが再び建設やイノベーションを始めるかどうかが、本当の問題ではありません。建設し、革新することは人間の本性の一部です。問われているのは、どのようなテクノロジーを作りたいのか、誰がそれを作る意欲を持つのか、そしてどのように作るのかです。次の災害にも耐えられる、社会を変革する仕組みを築くには、システム全体を捉えるアプローチが不可欠です。ただし、必要な協力は、デジタルへの信頼という課題を解決して初めて可能になります。
新型コロナ危機におけるデジタルツールの活用から、3つの教訓が得られます。
1. 不可欠な組織を安全に保つ
まず安全性を考えると、医療から在宅勤務ツールに至るまで、情報漏えいや脆弱性は、パンデミック対策(あるいはその最中の仕事)に使うツールへの信頼と、それを利用する機関への信頼を損ないます。病院、医療提供者、そして世界の保健機関は、医療提供に大幅な変更を要する新たな疾患の患者が急増するなか、対応に追われ、とりわけ脆弱な状態にあり、情報漏えいやランサムウェアなど、さまざまなサイバー攻撃の危険にさらされています。
ここから得られる明確な教訓は、インターネットに接続するすべての組織(特に不可欠なサービスを提供する組織)には、自らの安全を守る責任があるということです。患者が地域の病院で基本的な医療を受けられると信頼できなければ、病院に行かないでしょう。それでは、患者を支援する機会だけでなく、感染症の広がりを監視する機会も失われます。
この重大な脅威への対応は、デジタルへの信頼を協力して築く方法を示しています。一部の企業と政府は現在、協力して、不可欠な組織をサイバー脅威から守るツールとノウハウを提供し、それらの組織が人々を新型コロナウイルスから守れるよう取り組んでいます。対応は脅威に十分見合うものとは言えませんが、サイバーセキュリティとデジタルへの信頼に投資すると決めれば何が可能になるのかを示す、第一歩であり教訓です。
2. 在宅勤務の大規模な実験から学ぶ
危機によってリモートワークが一変したことを踏まえると、こうしたテクノロジーへのデジタル上の信頼を築く取り組みについて、顕著な失敗例と成功例を見極めることができます。その成功と挫折から得られる教訓は、これからの変革を導く助けになります。
責任を果たさないこと、倫理の欠如、プライバシーなどの価値を脅かすことは、日々の生活では見えにくい場合があります。しかし、誰もが在宅勤務をし、多くのデジタル仲介サービスに頼るようになると、こうした問題ははるかに目立つようになります。例えば、ビデオ会議やテレワークのツールに広く見られる脆弱性に加え、初期設定によってプライバシーが損なわれ、労働者から大学生、オンライン授業への参加を試みる子どもまで、あらゆる人々に影響が及びました。利用者への害を考慮せず市場投入を急いだ結果、これらの企業は必要なセキュリティ対策を最小限に抑えました。
利用者と利益を短期的に追求することは、長期的なデジタル信頼の欠如につながります。
利用者のプライバシーを守る責任や、使いやすさの公平性に対する説明責任が欠けていれば、いずれ利用者は企業に背を向けます。その結果、私たちの価値観と経済の間に対立が生まれ、双方が損なわれるでしょう。ここでの教訓は、利用者とそのウェルビーイングを最優先することです。デザイン段階から安全性とプライバシーを組み込む原則を取り入れる必要があります。そうすることで、パンデミック中の経済を支え、働き方がより強靱なものへと変わる将来にも必要となるツールへの信頼を守れます。
3. 不信感が危機対応を妨げる
デジタルでつながり、オンラインで広まる情報そのものも、デジタルへの信頼の論理に左右されます。接触追跡アプリの問題を考えてみましょう。新型コロナウイルスの感染拡大を抑える手段として、一部の大手テクノロジー企業が開発したものです。こうした企業が個人のデータを守ると信頼されていないため、当局は有用となり得るこの技術の利用をためらっています(また、アプリをめぐる一部の政府の試みも、信頼を生むものではありません)。この場合、信頼できるデジタルシステムを築く必要性を何十年も無視してきたことが、危機への対応能力を損なっています。
新型コロナウイルスのパンデミックによる人的・経済的損失がどれほど深刻になるか、米国がまだ見極めている段階にあります。それでも、「正常」だった時代は過ぎ去り、機能する社会と経済を取り戻すには、広範な「リセット」、つまり私たちの生活や制度を一世紀に一度の規模で変革する必要があるという考えが根付きつつあります。

グレート・リセットにはデジタルへの信頼が必要
現在の危機を経て、社会と経済は、おそらく大きく姿を変えていくでしょう。この機会を活用し、意図的に、より強く、より強靱で、より公平なものへと変革できます。しかし、より安全で、公平で、安定した世界へとリセットするには、デジタルへの信頼を最優先に据える必要があります。新しいテクノロジーを生み出すときも、既存の技術を新たな課題に応用するときも、安全性、責任、説明責任、倫理上の懸念を設計の最前線に置くということです。
グレート・リセットには、新たな制度やビジネスモデル、そしてそれらを築くための新しいデジタル技術が必要です。この未来の設計に取り組むすべての人へ。まずはデジタルへの信頼を築くことから始めましょう。
