欧州の沿岸洪水、2100年までに年間最大1兆ユーロの損失も

The famous landmark fish market in the harbour of Hamburg is pictured flooded, January 31, 2013. REUTERS/Fabian Bimmer (GERMANY - Tags: ENVIRONMENT CITYSPACE)
In contrast to the past century, the main reason behind rising loses from coastal flooding will be global warming.Image: REUTERS/Fabian Bimmer
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新たな研究によると、気候変動への適応に新たな投資を行わなければ、欧州の沿岸洪水による経済的損失は2100年までに年間ほぼ1兆ユーロに達する可能性がある。

この研究は、海面上昇と社会経済開発の継続が、欧州24カ国における将来の沿岸洪水リスクにどのような影響を与えるかを分析している。

過去1世紀とは対照的に、沿岸洪水による損失増加の主因は社会経済の変化ではなく地球温暖化になると、筆頭著者はCarbon Briefに語る。損失の加速も前例のないものだと付け加えた。

研究によると、沿岸防護の改修が行われない場合、英国が突出して最も大きな被害を受け、2100年までに年間最大2,360億ユーロの損害が生じ、110万人が沿岸洪水にさらされる。

沿岸被害

欧州の海岸線は全長10万キロメートルを超える。沿岸地域の多くは人口密度が高く、開発も進んでいる。

そのため、極端な海面水位による沿岸洪水の増加に対して脆弱だ。極端な海面水位は、海面上昇、潮汐、サイクロンによる高潮や波浪が組み合わさって生じる。

沿岸洪水による将来の損害は、社会経済の変化にも大きく左右される。そうした変化は、沿岸部に移り住む人の数や開発の規模に影響する。

新たな研究は、『Nature Climate Change』に掲載され、極端な海面水位と社会経済開発の両方をモデル化し、さらなる適応策を講じない場合に今世紀の損害がどのような規模になるかを示すことを目的としている。

研究では、こうした極端現象による経済的損害は、今世紀残りの期間における社会経済の動向の展開に応じて、現在の年間12億5,000万ユーロから、2100年までに年間930億~9,610億ユーロ(現在の価値)に増加すると予測している。これは現在の水準の75~770倍に当たる。

以下に示す3つの社会経済シナリオが検討されている。(Carbon Briefは最近、「共有社会経済経路(SSP)」として知られるこれらの新たなシナリオについて解説記事を掲載した。)

「持続可能性」(SSP1)。世界が徐々に持続可能性へと移行し、環境の限界を尊重する、より包摂的な開発を重視する。このシナリオは、将来の排出シナリオであるRCP4.5と組み合わされる。このシナリオでは、温室効果ガス排出量は2050年までに横ばいとなり、世界の気温は2100年までに産業革命前より2~3℃上昇する。研究によると、沿岸洪水による年間損害は2100年までに1,560億ユーロに達する。「分断された世界」(SSP3)。各国が、より広範な開発を犠牲にして、自地域内でエネルギーと食料の安全保障目標の達成に注力する。このシナリオは、RCP8.5と組み合わされる。これは排出量が多く、気候政策が弱いシナリオで、世界の気温は2100年までに産業革命前より約4~6℃上昇する。研究によると、沿岸洪水による年間損害は2100年までに930億ユーロに達する。「化石燃料依存型の開発」(SSP5)。豊富な化石燃料資源の開発と並行して、経済・社会開発を推進する。このシナリオも、RCP8.5の高排出シナリオと組み合わされる。研究によると、沿岸洪水による年間損害は2100年までに9,610億ユーロに達する。

以下のグラフは、各シナリオにおける年間損害が2100年までに欧州各国でどのように推移するかを示している。

2100年までの欧州24カ国における沿岸洪水による年間損害の予測中央値。対象シナリオは、RCP4.5-SSP1(「持続可能性」)、RCP8.5-SSP3(「分断された世界」)、RCP8.5-SSP5(「化石燃料依存型の開発」)。出典:Vousdoukasら(2018)。Carbon Brief作成。作図にはHighchartsを使用。

この研究では「分断された世界」と「化石燃料依存型の開発」の両シナリオで排出量は同じと想定されているが、前者では開発と都市化の程度が低いため、極端な海面水位にさらされる経済的資産は少なくなる。

すべてのシナリオで、絶対額で最も大きな経済的被害を受けるのは英国で、次いでフランス、ノルウェーとなる。現在、欧州の沿岸洪水被害のおよそ3分の1を占める英国は、2100年には欧州の被害の22~28%を占める。

ミハリス・ヴスドゥカス博士は、イタリアのイスプラにある欧州委員会共同研究センターの海洋学者で、この論文の筆頭著者だ。英国で予想される損害が大きいのは、北大西洋の海洋波にさらされているためだと、同博士はCarbon Briefに語る。ここは欧州でも強い海洋条件にさらされる地域の一つで、例えば地中海沿岸諸国よりも激しい気象条件につながるという。

アンドラ・ガーナー博士は、ニュージャージー州のラトガース大学で海面上昇を研究する博士研究員で、この研究には参加していない。同博士は、論文の結果は「多くを物語っている」と述べる一方、あらゆるモデリング研究には留意点があると強調する。Carbon Briefに次のように語った。

「ここでの結果は、社会経済上の選択が重要である一方、多くの地域では海面上昇が将来の洪水リスクを最終的に左右することを示しています。沿岸地域社会で適応策を強化し、レジリエンス計画を進めるため、迅速な行動が必要だと示唆しています。」

海洋は温暖化する気候にゆっくりと反応するため、海面上昇の影響は今世紀末以降、さらに深刻化する可能性が高い。この点は特に重要だとガーナーは付け加える。

より近い将来の被害

著者らは、より短期的な沿岸洪水被害も調べた。研究によると、今世紀半ばまでに、「持続可能性」「分断された世界」「化石燃料依存型の開発」の各シナリオで、それぞれ210億、130億、390億ユーロに達する。これは2000年の年間損害の10~32倍に当たる。

2050年までの各国別の費用内訳を以下のグラフに示す。すべてのシナリオで、絶対額では英国が再び最も大きな被害を受け、次いでフランス、イタリアとなる。

2050年までの欧州24カ国における沿岸洪水による年間損害の予測中央値。対象シナリオは、RCP4.5-SSP1(「持続可能性」)、RCP8.5-SSP3(「分断された世界」)、RCP8.5-SSP5(「化石燃料依存型の開発」)。出典:Vousdoukasら(2018)。Carbon Brief作成。作図にはHighchartsを使用。

研究によると、洪水防御施設は、国によって異なるものの、極端な海面水位の上昇幅が2050年までに約0.5メートル、2100年までに1~2.5メートルとなることに耐えられるよう、新設または補強する必要がある。

GDP比

研究者らはさらに、欧州の沿岸洪水による年間損害が、域内の国内総生産の合計に占める割合(GDP)を算出した。

シナリオによって異なるが、沿岸洪水被害は2050年までに欧州GDPの0.06~0.09%を占めると予測される。この割合は2100年までにGDPの0.29~0.86%に上昇する。現在の欧州における沿岸洪水被害は、GDPの約0.01%である。

この見方をすると、特に大きな被害を受ける国もある。研究によると、2100年までにノルウェーでは、シナリオに応じて損害がGDPの1.7~5.9%に相当する。キプロスではGDPの1.7~8.3%、アイルランドでは1.8~4.9%に達する。

研究によると、重要な点は、GDPで見ると現在の欧州では河川洪水の被害が沿岸洪水を大きく上回り、年間平均損害は60億ユーロ、GDPの約0.04%に相当することだ。洪水防御基準が引き上げられなければ、2050年以降は洪水リスクの中心が次第に沿岸洪水へ移ると研究は予測する。ヴスドゥカスはCarbon Briefに次のように語る。

「将来は、基本的に海面上昇という加速要因のため、沿岸洪水は河川洪水の4倍重要になります。沿岸洪水は大きく変化し、損害が大幅に増えるため、より重要になるでしょう。したがって、防護のための支出が必要です。」

影響を受ける人々

新たな研究は経済的損害に加え、沿岸洪水の影響を受ける人の数も予測している。この数は、極端現象の増加幅だけでなく、沿岸地域に何人が暮らしているかにも左右される。したがって、経済的損害と同様に、社会経済開発も気候変動と並んで大きな影響を与える。

研究によると、洪水にさらされる欧州の人々は、現在の年間10万2,000人から、2050年までに53万~74万人に増加する(ここでも、さらなる適応策が講じられない場合)。研究によると、2100年には「分断された世界」シナリオで欧州の150万人が、「化石燃料依存型の開発」シナリオで370万人が沿岸洪水の影響を受ける。

以下の3つのグラフは、2100年に各国で影響を受けると予測される人数を、3つのシナリオ別に示している。ここでも、すべてのシナリオを通じて英国が突出して最も大きな影響を受ける。

2100年の欧州24カ国において、沿岸洪水の影響を年間に受けると予測される人数の中央値。対象シナリオは、RCP4.5-SSP1(「持続可能性」)、RCP8.5-SSP3(「分断された世界」)、RCP8.5-SSP5(「化石燃料依存型の開発」)。出典:Vousdoukasら(2018)。Carbon Brief作成。作図にはHighchartsを使用。

大きな不確実性

ヴスドゥカスは、研究の予測には非常に大きな不確実性が伴うことを忘れてはならないと強調する。

以下のグラフは、3つのシナリオにおける沿岸洪水の影響が2100年までにどう変化すると予測されるかを示している。点線は前述の予測中央値を示し、色の付いた領域は結果に幅広い可能性があることを示している。

Image: Vousdoukasら(2018)

この論文について、ディエゴ・リブスキ博士は、ポツダム気候影響研究所の気候変動・開発グループ副責任者であり、論文は欧州の沿岸洪水リスクと海面上昇への理解に「大きく貢献する」とCarbon Briefに語る。一方で、沿岸洪水リスクのこうした評価には、さらに大きな不確実性が伴うとも付け加えた。

例えば、沿岸洪水は非常にまれなため、浸水がいつ起きるかを知るのは難しいと同博士は言う。今世紀前半に起きる「100年に一度」の事象と、後半に起きる同じ事象とでは、影響が大きく異なる可能性がある。また、ある100年間にそのような事象が一度も起きないことも、複数回起きることもありうる。

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