カーボンオフセットは、気候変動の原因となる排出を削減しながら、自然保護や持続可能な開発に資金を振り向ける方法となり得る。
しかし、適切に行われなければ、どちらの目的も達成できない可能性があり、批判する人々は「グリーンウォッシング」の手段だと指摘する。
Radio Davosのポッドキャストでは、自主的なカーボンオフセットのルールブックを策定している専門家に話を聞く。
また、カーボンクレジットの販売によって焼畑農業から保護されているインドネシアの熱帯林についても紹介する。
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カーボンオフセットは排出削減に役立つのだろうか。それとも、グリーンウォッシングのための新たな手段にすぎないのだろうか?
汚染を引き起こす企業が、自ら排出した温室効果ガスを埋め合わせるためにカーボンクレジットを購入すると、カーボンオフセットが行われる。その資金は、世界のどこかで同量の炭素を大気中から除去する、あるいは炭素排出を防ぐ取り組みに充てられるべきだ。
批判する人々は、オフセットは「グリーンウォッシュ」だと述べる。企業は排出削減を回避しながら、自社がカーボンニュートラルである、または将来的にそうなると主張できるからだ。
支持者は、適切に行えば、オフセットによって排出削減につながる自然保護や持続可能な開発のプロジェクトに資金を振り向け、企業が排出ゼロを目指して取り組む時間を確保できると述べる。
Radio Davosポッドキャストの最新エピソードでは、共同議長のレイチェル・カイト氏に話を聞く。自主的炭素市場の健全性イニシアチブは、カーボンオフセットがうたわれたとおりの効果を発揮するよう、ルールブックを策定している。
また、ダルソノ・ハルトノ氏にも話を聞く。UpLinkのトップ・イノベーターであり、リンバ・マクムール・ウタマの最高経営責任者(CEO)を務める同氏は、カーボンクレジットを生み出すインドネシア・ボルネオ島の森林、カティンガン・メンタヤ・プロジェクトを管理するインドネシア企業を率いる。以下に書き起こしを掲載する。
気候変動に対して、世界経済フォーラムはどのような取り組みを行っているのか?
カーボンオフセット:書き起こし
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ロビン・ポメロイ:あなたは、自主的炭素市場の健全性イニシアチブと呼ばれる組織の共同議長ですね。どのような組織なのか教えていただけますか?
自主的炭素市場の健全性イニシアチブ共同議長、レイチェル・カイト:そうです。VCMIは2021年に設立されました。複数の利害関係者が参加するイニシアチブで、自主的炭素市場の中核に「健全性」を据えています。その意味は後ほど説明しますが、健全性がなければ、自主的市場が二つの目的を達成するのは非常に難しくなります。一つ目は、自然や天然資源が豊富で、カーボンクレジットを生み出す可能性のある国々へ資金を振り向けることです。
これは、気候危機に直面する中で、自然を保護し、各国自身のレジリエンスとグリーン成長を支える適応策に、資金を切実に必要としている国々へ資金を継続的に流入させることにつながります。
二つ目の目的は、実際に排出を削減することです。市場メカニズム、この場合は自主的市場を活用すれば、排出を行い、ネットゼロの責務を果たす方法を見つける必要がある企業にとって、自主的市場はそのための手段となり得ます。
この複数の利害関係者によるイニシアチブは昨年、企業が自主的炭素市場を利用し、オフセットもその一部として活用する際に、ネットゼロを達成していると主張するための一定の指針、つまりルールブックを作ろうと集まりました。
ここ数年、ネットゼロを主張する企業がますます増えているのを目にしてきたでしょう。その主張が正当なものか、科学的根拠に基づいているかをめぐって、多くの懸念が生じています。また、非常に大規模なグローバル企業が小規模な開発途上国と取引し、そうした国々の自然が持つ炭素吸収能力を利用して、事業を継続することで生じる自社の炭素排出を相殺しようとしていることにも、大きな懸念があります。特に世界中の若者たちが、グリーンウォッシュだと非常に雄弁に批判してきたのは、まさにこの点です。
企業がネットゼロの主張を実現する必要があり、自然保護に資金を流す必要もあります。炭素排出を削減し、資金も流れるように機能させられるでしょうか。それとも、大量の空約束を生み出すだけでしょうか。行動を先延ばしにし、問題を解決できないままになるのでしょうか。VCMIは、ほかの多くの関係者とともに、この問いを検討するために設立されました。 自主的炭素市場が抱える課題に取り組む関係者とともにです。
ロビン・ポメロイ:では、VCMIの背後にいるのは誰ですか。誰が立ち上げたのでしょう?
レイチェル・カイト:VCMIは当初、英国政府とチルドレンズ・インベストメント・ファンド財団から資金提供を受けました。次の段階では、より幅広い政府や慈善活動団体から資金提供を受ける予定です。
私とともに共同議長を務める運営委員会には、ナイジェリア出身のタリエ・グバデゲシン氏をはじめ、ビジネス界、政府、市民社会、科学界で高い見識を持つ人々が参加しています。また、行動規範の策定を支える科学的根拠を提供する専門家諮問グループもあります。民間セクターや企業、市民社会、先住民族や地域社会、規制当局、政府とも協議を重ねてきました。国連開発計画もこの取り組みに参加しています。各国政府が自主的炭素市場で活用され得るクレジットを生み出す方法について、多くの支援や助言を提供しているためです。
つまり、複数の利害関係者が参加し、政府や慈善団体から資金提供を受けるイニシアチブの一つです。自主的炭素市場が運営されるのであれば、 社会にとって有益な形で機能するようにすることを目指しています。
ロビン・ポメロイ:対立の構図を見事に説明していただきました。カーボンオフセットが完璧に機能する世界を想像してみましょう。どのような姿でしょうか。理論上、カーボンオフセットがどう機能するのか説明してください。
レイチェル・カイト:つまり、カーボンオフセットとは、余剰クレジット、いわば余剰の炭素吸収能力を持つ主体と、クレジットを必要とする主体が取引する、あるいは関係を築くことで、前者の余剰クレジットが後者の超過排出を相殺するという考え方です。
もちろん、規制対象の炭素市場もあります。ここでは自主的炭素市場について話しています。異なる管轄区域の企業や国々が関わる市場で、国の管轄区域内に自主的炭素市場が存在する場合もあります。しかし、大きな懸念と大きな機会の両方をもたらしているのは、例えば西欧の複数の企業が中米のマングローブ林に資金を振り向けられるという考え方だと思います。マングローブは気候変動に対する自然のレジリエンスを支える極めて重要な存在で、多くの恩恵があります。炭素を吸収する重要な機能もその一つです。資金によってマングローブ林の保護や拡大が進むでしょう。雇用が生まれ、経済活動が活発になります。嵐を防ぐ手つかずの自然の防壁が保たれます。そして、その国や地域社会、あるいはマングローブ林を自らのものとする先住民族にも収入がもたらされます。
つまり、余剰がある側と必要とする側が結びつくという考えです。重要なのは、その成果をどう計上するか、そして何より、どのような場合に自主的炭素市場を実際に利用できるかです。そこに課題があります。
問題は、企業が自社の排出削減にできる限り取り組む前に、自主的炭素市場を利用してよいのかということです。そして、そもそも炭素予算が尽きつつある世界で、炭素市場を利用すべきなのでしょうか。企業に求めるのは排出削減、ひいては炭素排出の削減だけでよいのではないでしょうか。
VCMIが重点的に検討している大きな課題は、自主的炭素市場を利用する前に何をすべきかということです。企業は、事業モデルから生じる排出を減らすためにできる限りのことをし、自社のネットゼロ目標をどう達成するかを明確に理解し、残余排出だけが残る状態にするまでは、自主的炭素市場を利用して排出をオフセットしてはなりません。その残余排出が自主的炭素市場で扱えると判断されるなら、市場を利用する余地があるかもしれません。
多くの人が懸念しているのは、企業が排出削減に必要な措置を取る前に、一般的なネットゼロやカーボンニュートラルの公約の一環としてカーボンオフセットを使っていることだと思います。また、企業全体としてネットゼロの達成方法が明確でないのに、カーボンニュートラルをうたう製品を販売する企業もあります。「カーボンニュートラルなモーターオイル」などを買えるわけです。製品の表示には、依然として非常に疑わしいものがあると思います。
ロビン・ポメロイ:現時点では、こうした指針がないため、企業は自分でルールを作るようなこともできます。「これこれの取り組みをしたので、この製品はカーボンニュートラルです」と言える。実際にそういう例があるのでしょうか。
レイチェル・カイト:そうです。企業は、ある時点までにネットゼロを達成すると言いながら、今すでにカーボンニュートラルであるかのように示唆したり、公約があるから今の状態で問題ないかのように示唆したりしています。大切なのは、私たちは移行期にあるということです。今、カーボンニュートラルな企業はほとんどありません。あるとしても、ごくわずかです。多くの企業は、特定の日付までに達成するという公約と、そのための節目を掲げています。科学的根拠に基づく目標を持つ国は200を超えています。そうした目標は、カーボンニュートラルの達成計画の中でも、最も厳格で透明性の高い審査を経たものと言えるでしょう。
現在、自主的市場にはルールもガバナンスもありません。私たちのような自主的な取り組みや、クレジットの品質に関するルールを検討している民間主導の別の取り組み、国際的な自主的炭素市場の健全性評議会(ICVCM)、そして科学的根拠に基づく目標イニシアチブなどが活動しています。さまざまなグループが集まり、自主的市場が本来の目的を果たすための仕組みを築こうとしているのです。
一方で、高品質、あるいは高い健全性を備えたクレジットへの需要は非常に大きく、クレジット全般への需要も驚くほど高まっています。ネットゼロを公約する企業が増えるにつれ、達成への道筋を示す必要があるからです。
良い例も、悪い例も、ひどい例も目にしてきました。慎重で建設的な取り組みもあります。この戦略の一部としてどう位置づけるかを十分に検討している企業もあります。一方、市場に行けば、3年前に焼失したシベリアの森林由来であっても、クレジットを売る相手が見つかることがあります。
あらゆるものが市場にあります。しかし、企業や金融界が脱炭素化の必要性を理解するにつれ、需要側に非常に大きな圧力がかかっているのを目の当たりにしていると思います。
ロビン・ポメロイ:今後、全体がどのように進展するとお考えですか。多くの取り組みがあり、大勢の人が取り組んでいるようです。最終的にこれを機能させるには、何らかの保証が必要になると思います。それは実現可能でしょうか。実現するとすれば、どのような仕組みになるでしょうか?
レイチェル・カイト:今は、非常に必要でありながら難しい局面にあると思います。ルールは整っておらず、そのルールを監督する仕組みもありません。健全性を欠いた運用がもたらす結果はいずれ明らかになるでしょうが、まだ表面化していません。そのため、多くの民間企業は非常に戸惑っています。自主的な取引に参加しても、その取引が将来、高い健全性を備えていたと評価される保証はありません。
企業のモニタリングや検証を支援する民間事業者は数多くいます。衛星画像や機械学習、AIを使って、主張が妥当かどうかを判断する材料を提供する企業も次々に現れています。
ロビン・ポメロイ:そうした技術を使えば、例えば「植林または保護された森林が、今もそこにある」と確認できるわけですね。焼失したシベリアの森林ではなく。
レイチェル・カイト:そのとおりです。ただ、これらは民間の取り組みで、すべて自主的なものです。同時に、国連は規制対象の炭素市場について独自のペースで取り組んでいます。また、国連事務総長も動き出し、非国家主体全体のネットゼロの主張の健全性に関する課題を検討するハイレベルのタスクフォースを設置しました。
昨年、事務総長は強い危機感を抱いたのだと思います。活動が非常に活発で、求められる期間内のネットゼロ達成に賛同する動きも広がる一方、その多くは国や国家の管轄を大きく超え、自主的な分野で行われているからです。
都市や企業、資産所有者、銀行などがネットゼロを主張するなら、事務総長としては、すべてを合算したときに目標達成の軌道に乗っているかを把握する責任があります。そのため、ネットゼロをどう考えるかについての原則を検討するグループを立ち上げました。
しかし、一般企業の立場に戻ると、移行計画が必要であり、科学的根拠に基づくものでなければならないという事実から逃れることはできません。いずれ何らかの形で規制されるからです。企業の活動はすべて、何らかの広告基準当局の審査対象になるでしょう。消費者保護機関の審査対象にもなり、そうした機関は関与し始めると思います。
今、企業が難しいと感じているのは、こうした状況をどう切り抜けるかということだと思います。VCMIは企業の主張に関するルールブックを策定でき、ICVCMは高品質なクレジットの原則を示すでしょう。しかし結局、健全性は取締役会や経営幹部から始まります。企業にとって、それを避ける方法はありません。科学的根拠に基づく目標の迅速な達成に正当に役立たず、その国に安定した収入をもたらさないと分かっている活動に取り組み、後になって誰かが見逃してくれることを期待することはできません。
ロビン・ポメロイ:今、私が企業の立場だとして、排出削減にできる限り取り組み、計画も立てているとします。一方で、どこかのマングローブ湿地のプロジェクトに投資し、地域に貢献して大気中の炭素を吸収したい。投資予算もあります。今なら、どのような方法が最善でしょうか?
レイチェル・カイト:6月に公表したのが、主張に関するルールブックです。段階的なアプローチで、「VCMIゴールド」「シルバー」「ブロンズ」と名づけました。自主的炭素市場でゴールド、シルバー、ブロンズの水準の参加者と認められるために何をすべきかを説明しています。
これは、企業によって発展段階や管轄区域が異なることを考慮したものです。経済の各セクターで排出の状況が異なることも踏まえています。また、今は移行期であり、企業は取り組みを改善していく必要があること、ルールブックやクレジットの品質は時間とともに向上し、市場が良い結果をもたらす可能性があることを前提としています。
ぜひ目を通していただきたいと思います。経営コンサルタントや会計団体、企業が自主的炭素市場を活用する戦略を検討する際に支援を提供する、この分野のさまざまな団体やNGOにとっても、助言の指針となるでしょう。
基本的には、まず排出を削減する必要があります。そのうえで残余排出があれば、一定の段階で自主的炭素市場を正当に利用できます。ゴールド、シルバー、ブロンズの枠組みでは、そのための指針を示そうとしています。
現在、私たちはこれをベータテストしています。企業が内容を確認し、自社の状況に当てはめて検討したうえで、「逆効果になる」「機能しない」「複雑すぎる」「特定の状況でしか使えない」といった意見を寄せてくれることも大いに期待しています。
世界各地の大企業や中小企業が、ルールブックの初版を使ってフィードバックを寄せています。11月までに、少なくとも次回のダボス会議までには、実際に使用した企業の意見に基づく改訂版を出せることを期待しています。
ロビン・ポメロイ:お話にあったように、非常に難しい分野ですね。すべてをやめて、炭素排出や温室効果ガス排出に課税し、その税収をマングローブ湿地など、実現が必要なプロジェクトへの投資に使えば、もっと簡単ではないでしょうか。そうすれば単純になりますか。なぜ私たちは、こんなに複雑にしているのでしょう?
レイチェル・カイト:そうとも言えますし、そうでないとも言えます。魔法の杖があれば、世界中で実効性のある炭素価格制度を導入し、炭素税の税収を脆弱な人々や自然資本の保護などに投資するでしょう。ええ。しかし、その杖はありませんし、実現もしていません。極端な暑さの中で1億2,500万人が暮らす日でさえ、主要市場で実効性のある炭素価格制度について建設的な議論をすることすらできていません。
「魔法の杖があれば、世界中で実効性のある炭素価格制度を導入するでしょう。しかし、その杖はありません。」
自主的炭素市場の健全性イニシアチブ共同議長、レイチェル・カイト
ですから、確かにその方が簡単でしょう。しかし、私たちにはそれがありません。だからといって、規制対象の炭素市場を求め続けたり、企業などを規制して炭素リスクに全面的に対処したりする必要がなくなるわけではありません。
一方で、市場メカニズムを使えば、確実に迅速に対応できます。企業が自主的炭素市場を正当に利用できる場合もあります。グローバル企業の中には、部門間や世界各地の事業間で、事実上の社内自主市場を設けているところもあります。企業がネットゼロ達成能力について規制当局に負う義務とは別に、世界各地や地域社会のプロジェクトに参加し、資源の炭素吸収や炭素への影響に投資したいと考えるのは、まったく問題ないと思います。
ですから、自主的市場は存在すべきでないなどとは一概に言えません。明日、あらゆる場所で実効性のある炭素価格制度が導入されれば、はるかに効率的でしょう。しかし、この20年から30年の間、私たちはそれを実現できませんでした。だから、今の状況があるのです。
こうした市場を構築するにあたり、私たちは炭素を資産と捉えています。森林やマングローブが持つ炭素吸収能力は非常に大きな資産であり、投資を呼び込めるものであるべきです。しかし、排出を行い、ネットゼロ達成計画を超えて排出し続ける企業にとって、それは負債です。それでも現状、市場では双方とも資産として扱われています。
「市場メカニズムを使えば、確実に迅速に対応できます。企業が自主的炭素市場を正当に利用できる場合もあります。」
自主的炭素市場の健全性イニシアチブ共同議長、レイチェル・カイト
こうした市場をさらに構築していくのであれば、いくつかの根本的な議論が必要だと思います。もちろん、ここで問われるのは規制当局はどこにいるのかということです。過去7~8年で、規制当局や金融監督機関が気候危機への対応を大きく前進させました。しかし、こうした市場機会をすべての人にとって有益なものにするには、迅速な対応が必要です。それが自主的炭素市場の目的の一つです。自然資産の保護と排出削減を人々が進められるよう支援することが目的です。政府や規制当局には、ここで多くの役割があります。
カーボンオフセット:インドネシア
ロビン・ポメロイ:カーボンオフセットのプロジェクトが現場でどのようなものか知るため、インドネシア企業の最高経営責任者であるダルソノ・ハルトノ氏にお話を伺います。同氏の会社は、カーボンクレジットを生み出すインドネシア・ボルネオ島の森林を管理しています。ご出演ありがとうございます。あなたの会社は、ボルネオ島の熱帯林の一部を管理しています。その森はどのようなところでしょうか。様子を教えてください。私がそこを歩いたら、何が見えるでしょう?
リンバ・マクムール・ウタマ最高経営責任者(CEO)、ダルソノ・ハルトノ:15年前、私のビジネスパートナーで、当社の最高執行責任者(COO)を務めるレザル・クスマートマジャ氏が、ある提案をしてくれました。「ダルソノ、泥炭地の森林を守り、再生できる。泥炭地は湿地林で、インドネシアに典型的な森林だ。地域の人々に持続可能な生計手段を提供し、最終的には利益も出せる」と言ったのです。
カティンガンメンタヤ・プロジェクトの面積は約15万7,000ヘクタールです。比較すると、シンガポール島は約6万ヘクタールなので、その2倍の広さです。非常に広大な地域です。
ここは生物多様性に富む手つかずの森林で、ここに生息する動物たちを見ることができます。南北に100キロメートルに広がっています。東西は約30キロメートルです。二つの川に挟まれています。上空から眺めれば、典型的な熱帯林のように見えるでしょう。
しかし、この森林を特別なものにしているのは、泥炭地の森林であることです。泥炭地についてなじみのない方もいるかもしれませんが、泥炭地は地下に大量の炭素を蓄えています。土壌が鉱物質だけでできている典型的な森林とは異なり、泥炭地の森林の土壌は主に炭素で構成されています。1万年、あるいは2万年たつと、泥炭地の森林は炭鉱になると考える人もいます。これが背景です。つまり、このプロジェクトは、面積では最大ではないものの、15万7,000ヘクタールと非常に広大で、平均して700万トンのカーボンクレジットを生み出しています。泥炭地が大量の炭素を蓄えているため、今日、ボランタリー市場に登録されたプロジェクトの中で、創出する炭素量では世界最大です
ロビン・ポメロイ:この森林を管理するにあたり、どのような保全対策を講じていますか。また、この森林を管理・保全していなかったら、どうなっていたでしょうか。
ダルソノ・ハルトノ:私たちがここにいなかったら、というのが前提です。私たちは生態系修復ライセンスと呼ばれる許可を受けているので、そうでなければ企業がこの地域を開発し、パルプ・製紙用地に転換していたでしょう。つまり、こうした保全活動は行われなかったはずです。
ロビン・ポメロイ:つまり、あなた方がこの森林の管理・保全に対して報酬を受け取りながらそこにいなければ、木材や紙を作るために伐採されていた、ということですね。
ダルソノ・ハルトノ:そのとおりです。この15万7,000ヘクタールの地域は、歴史的に見れば、単一樹種を植えたプランテーション林、いわゆる人工林に転換されていたでしょう。しかし、開発して植林する前に、土地を排水しなければなりません。その結果、こうした排出が生じていたはずです。私たちはそれを実際に防いでいます。
ロビン・ポメロイ:排出は樹木から生じ、そしておそらくさらに重要なのは、炭素が蓄えられているこの泥炭土壌から生じていたわけですね。地域の人々はこれをどう受け止めていますか。つまり、こうした森林の中や周辺に暮らす人々にとって、どのような暮らしなのでしょうか。
ダルソノ・ハルトノ:私たちの地域を見ると、周辺に暮らす地元の人々が日常的にしていることの一つは農業です。焼畑のような活動をすることもあります。そのため、こうした森林破壊が起きてしまいます。
そこで私たちは、彼らの生産性を高められるよう支援しています。カティンガン・メンタヤ・プロジェクトの中心的な活動は、森林を破壊せずに地域社会の生産性を高められるよう、人々の行動をどう変えていくかということです。
ロビン、言うは易く行うは難しです。私自身、40代になってから行動を変えるのは簡単ではありません。小さな経験をお話しします。2015~16年に村を訪れたときのことを覚えています。初期のころ、私たちは農家の人たちに、焼却せず、化学物質を使わない方法をとるよう説得しようとしました。
大半の人は米を作っています。米は長期保存できるからです。園芸作物や野菜は作りません。買い手が見つからなければ、すぐに腐ってしまうからです。そして乾季になると、こうした雑草が生い茂り、人々はその土地を焼き払います。焼畑をして、また作物を植えるのです。
2015年、焼却せず、化学物質を使わない活動を導入しようとしたとき、約500人の農家の人たちに話をしました。私たちのプログラムに関心を示したのは何人だったと思いますか。たった2人です。行動を変えるには大きな努力が必要だと思います。もちろん、数年たった今では、変化が起きているのがわかります。現在は、農家の人たちに教え、互いに意見を交換し、有機農業に取り組んでもらうための「農業生態学スクール」があり、生産性は以前より高くなっています。長年慣れ親しんだことを変えるのは簡単ではないと思います。
ロビン・ポメロイ:カーボンオフセットへの批判の一つに、樹木や土壌に蓄えられた炭素がそのまま残ると、どうすれば確信できるのか、というものがあります。それを永続させるものは何ですか。5年後に焼き払われ、結局その炭素がすべて放出されてしまわないと、どうすればわかるのでしょうか。
ダルソノ・ハルトノ:当社PT Rimba Makmur Utama(RMU)は、この地域で60年間事業を行うライセンスを付与されました。このライセンスでは、森林の伐採は認められていません。森林を再生し、保全しなければなりません。これが、私たちが考える永続性のようなものです。
ただし、この永続性が持続可能であるためには、持続可能な資金調達と、人々にもたらされる利益が必要です。地域社会は生計を森林に依存しているのですから、地上に何の利益ももたらさずに、私たちにずっと永続性を保てと言うのは公平ではありません。
だからこそ、地域社会とともに取り組む中で、燃焼や森林破壊につながる行動を、より生産的な活動へと変える方法を探り、この状況を変えようとしています。
取り組もうとしている小さな例をお話しします。ある小さな村で、かなりの額を投資する予定です。従来の養殖を行うだけでなく、ライギョを加工して、医薬品に使われる非常に高品質なアルブミンを製造する施設を実際に建設しています。私たちが目指すのは、そういうことだと思います。
「カーボンクレジットの販売で得るこの炭素資金によって、それが可能になります。事業や持続可能な生計プログラムを構築し、従来の農業を飛び越えて、はるかに高品質な製品を生産できるようになります。」
ダルソノ・ハルトノ、最高経営責任者、Rimba Makmur Utama
カーボンクレジットの販売で得るこの炭素資金によって、それが可能になるのは喜ばしいことです。事業や持続可能な生計プログラムを構築し、従来の農業を飛び越えて、はるかに高品質な製品を生産できるようになります。それだけではありません。地域社会に収入をもたらすと同時に、地域の人々の能力も高めます。自分たちにも、より生産的な活動ができるという当事者意識を持てるようになるのです。
カティンガン・メンタヤ・プロジェクトの良いところは、常に実験を歓迎し、革新や創造性を歓迎していることです。それが私たちの存続を支えているのだと思います。
ロビン・ポメロイ:これには植民地主義的な側面があるのではないでしょうか。西側諸国が汚染し、炭素を排出していて、ある程度はその問題を解決するために、あなた方のような地域にお金を払っている。これもカーボンオフセットに対する数ある批判の一つで、植民地主義的な側面があるということです。この点をインドネシアの人々や、あなたがともに働く人々はどう感じていますか。
ダルソノ・ハルトノ:世界最大のプロジェクトである私たちは、非常に大きな企業で、広大な計画を運営しているとも見られています。15年前、人々が私たちを「新たなネオコロニアリズムだ」と評したのは、そういうことだと思います。今回、何が違うかといえば、この事業は環境サービスを証明書やカーボンクレジットという形で提供するものなので、多くの信頼性が必要です。高い透明性も求められます。強力な認証も必要です。しかし、私たちにとってさらに重要なのは、地域社会と透明性をもって協働し、最善のものを提供する方法です。
だから、植民地主義とはまったく逆だと思います。私たちは環境を守るだけではありません。何よりも、包摂的かつ透明でなければなりません。石炭採掘や石油・ガスなどの他の分野では、製品を実際に引き渡すことで、現地で何が起きても人々が目をつぶることがあります。私たちの製品はまったく異なります。世界最大のプロジェクトとして15年間にわたり変革を続ける中で、私たちが行っていることは植民地主義とはまったく相いれず、すべてを地域社会に還元していることが人々にもわかるでしょう。
「これは植民地主義とはまったく違います。気候変動と不平等の問題を解決するなら、これは新しいビジネスのあり方であり、進むべき道だと思います。」
ダルソノ・ハルトノ、最高経営責任者、Rimba Makmur Utama
しかし、人々が私たちからクレジットを買うなら、それも植民地主義的な仕組みなのかという問いが出てきます。先進国と発展途上国の間で、共通の責任や異なる責任をどう考えるのかという、全体的な議論に立ち返る必要があると思います。先進国から発展途上国のオフセットを購入すれば、環境だけでなく、何より地域社会にもたらされる利益が見えてくるでしょう。
ですから、これは植民地主義とはまったく違うと言えます。気候変動と不平等の問題を解決するなら、これは新しいビジネスのあり方であり、進むべき道だと思います。
ロビン・ポメロイ:とても興味深いですね。つまり、西側諸国やグローバル・ノースが新興国に未開発のままでいるようお金を払っているのではなく、この資金はあなた方のような地域の発展に役立つ、しかも持続可能な形で発展できる、ということですね。
ダルソノ・ハルトノ:そのとおりです。特に、私たちが有するような種類の森林なら、開発するより保全する方がよいと思います。もちろん、発展途上国の開発を完全に止めるというほど単純な議論ではありません。しかし、どの天然資源を維持できるのか、どの天然資源を蓄え、開発の一環として活用する方がよいのかを見極めることはできます。
しかし、開発とは、もはや工業化や石炭生産を意味するものではないと思います。今日、私たちが生産するものの多くには、再生可能エネルギーなどがあり、こうした天然資源を損なわずに保つことができます。開発の余地を確保できるのです。ただ、開発の方法が以前とは異なるということです。
だからこそ、私たちを支援するため、先進国から多くの資金が必要です。インドネシアのような国は、脱炭素化への移行を進めるために、多額の資金面の支援を必要としています。
ですから、私たちを支援しないのであれば、植民地主義と捉えることもできるでしょう。しかし、私たちを支援し、脱炭素化を実現できるよう本当に助けてくれるなら、例えばクリーンエネルギーによって、開発を続けることもできます。ロビン、あなたが言うような植民地主義だとは思いません。
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