「若く、洗練され、ヒジャブを着用している。ユニリーバ、プロクター・アンド・ギャンブル、ロレアルなどの多国籍企業も注目している」と、 フィナンシャル・タイムズ は最近の見出し記事で報じている。イスラム世界の人口増加が消費者層の拡大につながるなか、これまでほとんど注目されてこなかった新たな消費者グループが台頭している。
FTによると、ファッションに敏感なイスラム教徒の女性たち(色鮮やかなヘッドスカーフを着用することから「ヒジャブスター」または「ヒジャバー」と呼ばれる)の購買力は、東南アジアで文化的現象となっている。高学歴の彼女たちは、新たな製品、サービス、イノベーションへの需要を牽引している。
FTによれば、この「信仰の要因」を捉えた企業は恩恵を受けている。インドネシア第2位の貸し手であるバンク・ラクヤット・インドネシア傘下のシャリア銀行、バンクBRIシャリアなどは、宗教を重んじる消費者に働きかけている。プロクター・アンド・ギャンブルはヒジャブを着用する女性向けの製品ラインを開発し、ユニリーバ・インドネシアはイスラム・ファッションのデザイナーやモデルのコンテストに協賛した。
World Religion Databaseとピュー・リサーチ・センターの人口統計報告によれば、世界のイスラム教徒の数は1970年の6億人から2010年には16億人に増え、2050年には28億人になると予測されている。これにより、今日そして近い将来にわたって、まったく新しい一連の市場機会が生まれている。
しかし、拡大しているのはイスラム教徒の市場だけではない。1970年から2050年の間に、世界のヒンドゥー教徒人口は5億人から15億人へと3倍になると予測され、世界のキリスト教徒人口も同じ期間に、1970年の12億人から2050年には29億人へと2倍以上になると予測されている。
つまり、成長する信仰共同体の購買力は、それを理解しているかどうかにかかわらず、ほとんどの市場で重要な役割を果たすだろう。一方で、これらの信仰共同体は概して、投資収益率(ROI)にとって世界最大の脅威である汚職に対する道徳的な防波堤となっているのも事実だ。
言い換えれば、グローバル化した世界の多くの事柄と同様に、新旧が融合して新たな市場パターンが形成されつつある。一方で、組織宗教は新しいものではない。信者は常に何らかの形で消費者だったが、さまざまな「セグメント・マーケティング」の試みの下に覆い隠されてきた(ビジネス側はそれを認識していなかったかもしれない)。
他方、信仰――より高次の何かに対する道徳的信念であり、宗教機関と結びついていることもあれば、個人のアイデンティティや消費者としての選択において不可欠で優先される一部であることもある――は、新興市場を形作らずにはいられない新たな要因である(以前、 東南アジア および 経済 全般について論じたとおりだ)。
簡潔に言えば、信仰の要因を尊重し、それに応じた対話ができる者は、影響力とインパクトを及ぼし、より大きな利益率を生み出すうえで、より有利な立場に立てる。
そのため、ビジネススクールが卒業生に信仰の要因を認識させ、少なくとも関与できるようにするのは自然なことと思われる。しかし、実際にはそうなっていないようだ。世界の上位25校のビジネススクールを大まかに調べたところ、関連する授業はバージニア大学ダーデン経営大学院の 「信仰、宗教、責任ある経営行動」 の1科目だけだった。著名なキリスト教系大学でも状況はさほど良くない。たとえばノートルダム大学には 「ビジネスにおける倫理・宗教的価値センター」 と「仕事のスピリチュアリティ」という授業があるが、個人の内省を主眼としているようだ。
要するに、ビジネススクールは、新興市場において信仰の要因が果たしている、そして今後果たす役割に関与し、それを活用する力を卒業生に身につけさせる授業を提供していない。そこで、起業家が信仰の要因の影響が今後も拡大する世界で事業を行う準備を整えるにあたり、ビジネススクールの学部長や教授が検討できるよう、選択科目、あるいは専攻課程を設計するための5つの原則を提案する。そのような授業では、次のことを行う。
リスク管理と機会分析における分析要因として信仰を認識する。安全保障分野で私たちが見てきたように、専門家が信仰の要因について話したがらないのは自然な反応だ。その理由は2つある。礼儀正しい場では宗教や政治について話さないよう教えられてきたこと、そして宗教はすでに別のカテゴリー(たとえば文化)に含めて考慮していると思っていることだ。リスク管理に信仰の要因を加えるだけでも大きな前進となる。人々が政治家よりも信仰指導者を信頼する世界で、信仰共同体を信頼と流通のネットワークとして捉えられると理解すれば、可能性に対する新たな視野が開ける。
地域の宗教人口動態における好ましい傾向と好ましくない傾向を見極める。前回のブログで 東南アジアについて論じたように、ほとんどの企業は新興市場戦略に満足しておらず、地域に関する知識をさらに深める必要性を認識している。世界で最も宗教的多様性に富む地域では、そうした知識に信仰の要因を含めなければならない。信仰の要因が地域の汚職や急進化の傾向に与える影響を理解することも不可欠だ。
汚職や過激主義との闘いに不可欠な存在として、信仰共同体を理解し、支援する。信仰共同体への投資は、ROIにつながる長期投資だ。社会の透明性と道徳性が高いほど、契約が履行される可能性も高まる。社会の道徳的な防波堤を強化し、広げることは、宗教的過激主義を抑止・阻止し、安定性を高め、ひいては海外直接投資の機会を増やす。国連グローバル・コンパクトの「ビジネス・フォー・ピース・プラットフォーム」が、企業に対し、宗教間の相互理解と平和を支える強力な力となるよう呼びかけているのも、驚くにはあたらない。
地域のコミュニケーションや交渉において信仰の要因を評価、分析し、対処できるだけのリテラシーを身につける(ケーススタディやロールプレイを通じて行う)。世界各地での経験から、政府や企業のリーダーは概して、信仰共同体とどう関わればよいかを知らないことがわかった。職務経験や正式な訓練の中で、そのための準備をする機会がなかったのだ。(うまく関与できるリーダーは、個人的な理解と信仰の要因に対する直感に頼る傾向がある。)また、信仰指導者も政府や企業のリーダーとの関わりがあまり得意ではない。地域の政府関係者や信仰指導者を招く授業は、信頼と相互理解の構築に大いに役立つだろう。
地域レベルでより良い経営を構築するために、信仰の要因を活用する。企業内で信仰の要因が考慮され、異なる信仰を持つ人々(および信仰を持たない人々)が同僚や雇用主から尊重されていると感じられるなら、信頼はより深まる。深い信頼は社内の汚職を減らす一方、社外ではブランドと製品双方の支持者を地域に生み出し、ロイヤルティを築く。
結論として、ビジネススクールが少なくとも1つの選択科目で信仰の要因を扱えば、誰にとっても利益となる。ビジネススクールの皆さん、試してみてはどうだろう。まず1科目を設け、通常の指標、たとえば履修登録数、他分野の単位としてその科目を履修するための問い合わせ数、または学生の入学募集状況を追跡する。
私たちの見立てが正しければ、イノベーションと時代への適合性というブランドを築きながら、独自の収益源も拡大するだろう。一方で、汚職や過激主義が減り、尊重と収益が増すなか、地域レベルで信仰の要因を理解し、それに関与できるビジネスパーソンが増えれば、世界の状況を改善できる。
著者:ブライアン・J・グリムは、宗教の自由とビジネス財団の会長。クリス・サイプルは、グローバル・エンゲージメント研究所の会長。両者は、 信仰の役割に関するグローバル・アジェンダ評議会のメンバーである。
画像:2014年11月24日、ペシャーワルの大学心理学部内にあるジャーナリスト能力・トラウマセンターの外で学ぶ心理学科の学生たち。REUTERS/Zohra Bensemra

