セメント産業のCO₂排出量は、現在の27億トンから、2050年には年間38億トンに達する見込みです。
しかし、セメントとコンクリートは、建設やより広い経済にとって不可欠です。
サーキュラリティは、排出を最小限に抑えながら住宅やインフラの建設を可能にし、この問題の解決に役立つ可能性があります。
セメントは、ひいてはコンクリートも、建築環境の要です。世界の需要は過去20年間でほぼ3倍になり、推計では何も対策を講じなければ、2050年まで増加し続けるとみられています。
しかし、広く使われているにもかかわらず、セメントを取り巻く産業は環境に大きな影響を与えており、世界のCO₂排出量の約7%を占めています。
この部門の脱炭素化が難しいのは、化学反応の過程でCO₂が排出されることに加え、セメントの製造に大量のエネルギーを要するためです。
対策を講じなければ、通常どおりのシナリオでは、セメント産業の炭素排出量は2020年の約27億トンから、2050年には年間38億トンに達します。これは、地球温暖化を1.5℃に抑える世界的な取り組みにとって大きな障害です。
この問題に対処する選択肢の一つがサーキュラリティです。新たな未使用部材の製造需要を減らすことで、増加する排出量への対処に役立つほか、コスト削減や、過去から蓄積した廃棄物への解決策など、さらなる利点をもたらす可能性もあります。
セメント産業でサーキュラリティを実現し、ネットゼロへ
コンクリートとセメントにおけるサーキュラリティには二つの側面があります。一つは、廃棄物(自社のバリューチェーンまたは他のバリューチェーンから生じたもの)に含まれる材料や鉱物を循環させることです。もう一つは、エネルギー(代替燃料や再生可能エネルギーを通じて)または回収した排出物を循環させることです。

建築・建設エコシステムの関係者は、次の三つのサーキュラリティ戦略を導入することで、業界が脱炭素化目標を達成できるよう、直ちに行動を起こせます。再設計、削減、再利用です。
建物とインフラを再設計する
再設計には、必要な材料の総量を減らすため、建物や構造物の使い方を見直すことが必要です。
モジュール設計や解体を考慮した設計(使用と再使用の閉じた循環)は、サーキュラリティに貢献できます。設計者や建築家は、既存の構造物を修繕・改修して活用することで、新しい構造物の必要性を減らします。
このアプローチには、エンドユーザーのニーズに応えるため、顧客をより重視する視点への意識転換が必要です。たとえば、モジュール設計なら、用途に合わせて容易に変更できる柔軟な空間を求めるエンドユーザーのニーズに応えられます。
材料からの排出を削減する
廃棄物由来の代替燃料は 炭素排出と過去から蓄積した廃棄物の双方への対処に役立ちます。
グローバル・セメント・コンクリート協会(GCCA)のネットゼロ・ロードマップによると、セメント・コンクリートの生産に使われるエネルギーのうち、産業廃棄物、都市廃棄物、農業廃棄物を含むバイオマスなどの代替燃料が占める割合は、2030年までに20%を超え、2050年までに40%を超えると予測されています。
再生可能電力や廃熱回収も、さらなる機会をもたらします。プラスチック廃棄物の漏出が多い国では、エネルギー回収が大きな機会となります。プラスチック廃棄物は代替燃料の重要な供給源になり得るためです。
他産業の副産物は、コンクリート・セメントのバリューチェーンに直接再利用でき、廃棄物処理の解決策の一端を業界が担えます。たとえば、共同処理によって鉱物廃棄物や燃料焼却灰から原材料を取り出せます。現在、鉄鋼業の高炉スラグや発電所のフライアッシュがセメント製造工程で使われています。
こうした技術により、廃棄物の排出事業者は埋立税を節約でき、セメント・コンクリート製造業者は原材料費を削減できます。セメント製造に使われるクリンカーを置き換えることも、CO₂排出削減につながります。クリンカーの生産では、1トン当たり約830kgのCO₂が排出されるためです。
バリューチェーン内に循環の輪をつくるもう一つの方法は、建設・解体廃棄物(CDW)から生じる再生コンクリートペーストを、補助セメント系材料として利用することです。現在、発生したCDWのうち再利用されるのは、3分の1から3分の2にとどまり、主に低品質の骨材として道路建設に使われています。デジタルソリューション、リサイクルサービス、業界横断の協力によって、こうした課題の克服を後押しできます。
回収した炭素を再利用する
製造工程で回収したCO₂排出は、再生クリンカーの製造(鉱物化)や新しいコンクリートの製造(炭素養生)などを通じて、バリューチェーンに再び取り込めます。コンクリート構造物は、その寿命の間に相当量のCO₂を吸収します(再炭酸化)。
コンクリート構造物は、その寿命の間に相当量のCO₂を吸収します。工程で回収した残りの炭素は、貯留したり、別の目的に使ったりできます。炭素回収・利用・貯留(CCUS)は、ネットゼロへの道筋における最大の脱炭素化手段であり、イノベーションに大きな機会をもたらします。
実際、計画が進んだ段階にあるCCUSプロジェクトの投資額は合計で270億ドルを超えると見積もられており、2010年以降に稼働したプロジェクトのほぼ2倍に達します。
ネットゼロに向けて関係者が取るべき行動
業界が今、こうした戦略を持続可能な価値創出と成長の機会へとつなげる時です。一部のメーカーは、サーキュラリティの解決策を大規模に導入するうえで、依然として課題に直面しています。たとえば、埋立地の地域事情や規制の違い、廃棄物処理や製品基準の違いが障壁となっています。
適切なアプローチを取れば、バリューチェーン全体の関係者は、サーキュラリティの解決策から脱炭素化の可能性と新たな価値源の双方を引き出すことができます。次のアプローチの一つ、または両方を適用することで、事業機会が生まれる可能性があります。
生産に使う材料に注目する
企業は、建設・解体廃棄物やその他の材料をリサイクルし、脱炭素化する新技術に投資できます。このアプローチには、材料をより広い視野から捉え、他産業との提携や協力を通じて代替建材を探ることも含まれます。
変化する消費者の嗜好に応える
もう一つの選択肢は、バリューチェーンの各段階で、材料ごとの顧客ニーズを探ることです。関係者には設計者、建設会社、エンドユーザーなどが含まれます。こうした包括的な視点から、「サービスとしての建材」のような新たなビジネスモデルの機会を見いだせる可能性があります。たとえば、プレキャスト建築モジュールを、柔軟に利用できるリース方式で顧客に提供できます。
世界経済フォーラムはマッキンゼー・アンド・カンパニーと連携し、主要なサーキュラリティ施策の経済性、コスト、潜在的な便益を包括的に明らかにするとともに、この重要な移行に関わる各ステークホルダーに説得力のあるビジネスケースを提示します。この目標に沿って、フォーラムはGCCAを共同主導者の一つとするミッション・ポッシブル・パートナーシップ(MPP)の 気候変動に向けたコンクリート行動(CAC)イニシアチブをはじめ、主要な業界関係者との協力を発展させています。



