電気自動車の販売は急増していますが、普及を成功させるには、充電からバッテリーに至るまで、さまざまな分野でのイノベーションが必要です。
フォーラムの新たな報告書は、多くの都市で、需要に応えるだけの速さで公共の充電設備が整備されていないと警告しています。
公共充電をはじめとする分野における、最新の電気自動車関連イノベーションをご紹介します。
電気自動車(EV)の販売が急速に伸びる一方で、調査によると、多くの人は、車を乗り換えることを検討する前に、充電時間の短縮、航続距離の向上、コストの低減を望んでいます。
こうした懸念に対応するため、業界では次のようなイノベーションが進んでいます。
バッテリー交換
自宅にEV充電設備を設置できる人ばかりではありません。より多くの人にとってEVの所有を便利にすることは、近年の多くのイノベーションの焦点となっており、その一つがバッテリー交換です。
バッテリー交換サービスでは、利用者は消耗したバッテリーを充電済みのものとすばやく交換できます。多くの場合、サブスクリプション方式で提供されており、さまざまな利点が期待されます。まず利便性です。この分野の企業は、わずか5分で交換できるため、停車してガソリンを給油するのと同程度の時間で済むと主張しています。
さらに、購入者は車体のみを購入してバッテリーパックをリースできるため、EV購入時の初期費用を抑えられます。バッテリー交換なら、充電速度を落とすこともでき、バッテリーの寿命を延ばせる可能性があります。電力網にも利点が見込まれます。バッテリー交換ステーションは、電力需要の少ない時間帯に充電することで、エネルギー需要を抑えられるためです。
バッテリー交換という考え方は新しいものではありませんが、最近まで本格的な普及には至っていませんでした。現在は、中国を拠点とするNioなどの企業が、世界各地に数千か所のバッテリー交換ステーションを保有し、顧客ができるだけすばやく簡単に利用できるようにすることで、状況を変えつつあります。
世界経済フォーラムは、持続可能で包摂的なモビリティシステムをどのように推進しているのでしょうか。
世界経済フォーラムのモビリティの未来を形づくるプラットフォームは、航空宇宙・ドローン、自動車・新たなモビリティ、航空旅行・観光、サプライチェーン・輸送の4業界にわたって活動しています。モビリティの未来を安全でクリーンかつ包摂的なものにすることを目指しています。
「クリーン・スカイズ・フォー・トゥモロー連合」を通じて、100社を超える企業が協力し、2030年までに世界の航空業界で持続可能な航空燃料の割合を10%にすることを目指しています。
フォーラムはユニセフと協力し、主要な海運、航空、物流企業と憲章を策定しました。COVAXによる世界各地の脆弱なコミュニティへの新型コロナウイルス感染症ワクチン10億回分超の供給を支援するためです。
ロード・フレイト・ゼロ・プロジェクトとP4G・ゼロへの移行連合は、ゼロエミッション貨物輸送への移行を加速させる根拠、コスト、機会を示す成果を生み出してきました。
「Medicine from the Sky」イニシアチブは、ドローンを使ったワクチン配送を行い、インドの遠隔地に医薬品も届けています。これまでに300件を超える実証実験を成功させました。
フォーラムのターゲット・トゥルー・ゼロイニシアチブは、電動および水素を利用する飛行技術を活用し、ゼロエミッション航空の導入と拡大の加速に取り組んでいます。
ロサンゼルス市、米連邦航空局、NASAと協力し、フォーラムは「アーバン・スカイの原則」を策定しました。世界各地の都市で都市型航空モビリティの導入を促すためです。
フォーラムは宇宙サステナビリティ評価の策定を主導し、宇宙ミッションの管理や軌道上のデブリ低減において、より安全で持続可能なアプローチを奨励・推進しています。
サーキュラー・カーズ・イニシアチブは、自動車分野のサーキュラーエコノミーに関する政策議論に情報を提供しています。欧州委員会およびゼロエミッション車移行評議会参加国の支持を受け、現在は中国の政策ロードマップへの支援も要請されています。
ムービング・インディアネットワークは政策立案者と協力し、電気自動車の製造政策を前進させ、ゼロエミッション道路貨物車両の普及を促し、移行に必要な資金を確保しています。
アーバン・モビリティ・スコアカード・イニシアチブは、フォーラムのグローバル・ニュー・モビリティ連合が主導し、モビリティ事業者と都市を結びつけ、持続可能な都市モビリティシステムへの移行を評価するための基準づくりを進めています。
お問い合わせください。参加方法など、詳しくご案内します。
バッテリー技術
国際エネルギー機関(IEA)の新しい世界EV展望によると、EV販売の拡大に伴ってバッテリー需要が増加しています。それを受けて業界は、「より手頃な価格の化学組成と新たな設計の開発計画を加速」させています。
現在、最も広く使われているEV用バッテリーはリチウムイオン電池です。高い出力重量比やエネルギー効率などの利点があります。専門家は、バッテリー技術の向上に取り組み、容量の拡大、充電時間の短縮、コストの削減を図るとともに、コバルトやリチウムなど、主要なバッテリー材料の供給に関する懸念にも対処しています。
たとえば、リチウムを使う一方でコバルトやニッケルなどの重要鉱物を必要としないリン酸鉄リチウム電池が普及しつつあります。IEAによると、2023年には容量ベースで世界のEV需要の40%超を供給しました。これは前年のシェアの2倍を超えています。このシェアの大部分は中国におけるものですが、欧州や米国などの市場では、ニッケル含有量の高い化学組成が依然として主流です。
航続距離の向上と充電時間の短縮が期待される、リチウムイオン電池に代わる選択肢の一つが全固体電池です。日産などの企業が開発を進めている全固体電池は、液体ではなく固体の電解質を使います。この設計により、より小さな空間でエネルギー密度を高められるため、航続距離が延び、電荷をより効率よく移動させて充電時間を短縮できる可能性があります。日産によると、同社の電池はサイズが半分でもエネルギー量は2倍となり、EVの航続距離を2倍にできる可能性があります。
ナトリウムイオン電池は、リチウム、コバルト、ニッケルの代わりにナトリウムを使います。この技術は性能を向上させるものではありませんが、より入手しやすい材料を使うため、コストを削減できる可能性があります。
公共充電
世界各地でEV販売が急増する一方、多くの都市では、需要に応えるだけの速さで公共充電設備が整備されていません。これは、世界経済フォーラムの新たな白書「EV充電への投資拡大:都市のための政策ロードマップ」が指摘している内容です。
この白書によると、EV充電インフラへの投資には、政府と民間部門の協力が必要です。一例として、米国を拠点とするスタートアップのIt’s Electricは、電力網に接続するのではなく、建物から電力を得る路肩設置型EV充電器を製造しています。建物の密集度が高いことや電力網の容量に限りがあることなど、公共充電インフラの拡充における都市の課題を解決する一助となる可能性があります。
同社は不動産所有者と適切な建物を探し、自治体と必要な許可の取得に取り組んでいます。こうして充電器のネットワークを構築し、米国で大幅な増加が予測されるレベル2充電の需要に応えようとしています。レベル2充電器は、家庭や公共の場所で一般的に使われています。
ほかにも、革新的な公共充電ソリューションとして、スコットランドで使われなくなった旧式の通信ボックスを転用する方法や、電柱に設置する充電器があります。ロンドンやロサンゼルスなどの都市では、既存の電柱や街灯のインフラを利用してEV充電器を設置しています。
充電の高速化
走行中にバッテリー残量が少なくなれば、できるだけ早く車を充電したいと思うのは自然なことです。そのため、公共充電設備では、急速充電器の増加が普通充電器を上回るペースで進んでいるのも不思議ではありません。
中国が先行しており、世界の急速充電器の85%超を占めています。その中には北京の超急速充電ステーションもあり、1日に700台の電気自動車に電力を供給できます。各ステーションは一度に6〜8台を充電でき、急速充電対応車なら10分以内に充電できます。
北京はこうした充電器のネットワークを構築する計画で、全体で1日に8,000台を超える車両を充電できるようになります。
電化道路
走行しながら車を充電できる世界では、航続距離への不安は遠のくでしょう。電化道路があれば、それを現実にできる可能性があります。
こうした道路を実現する方法は3つあります。バスや路面電車などの大型車両が利用できる架線方式、道路のレールに接触する金属片を通じて車両を充電する導電方式、そして道路下の設備から車両のコイルに電力を送り、バッテリーを充電する誘導方式です。スマートフォンのワイヤレス充電に似た仕組みです。専門家によると、この種の「動的充電」が可能になれば、バッテリーを小型化しながら、充電ステーションで待つことなく、より長距離を移動できます。特に、農村部や交通量の多い場所で役立ちます。
電化道路は大型車両の充電維持を主な目的としてきましたが、スウェーデンの最近の研究では、自宅での充電と電化道路を組み合わせることで、個人所有のEVのバッテリーサイズを最大70%縮小できると分かりました。同国では複数の電化道路プロジェクトが進んでおり、世界初の恒久的な電化高速道路もその一つです。一方、ミシガン州デトロイトでは、米国初の電化道路の建設が計画されています。
電化道路は、電力網、バッテリー、またはソーラーパネルなどのクリーンエネルギー源から電力を得て運用できます。
