目の前の必要や愛する人々を超えて、他者を思いやることができないのは、現代における最大の課題かもしれません。最近の報告書は、人類が「1970年以降、動物の個体数の60%を消滅させた」とし、それが「文明の存続を脅かしている」と指摘しました。しかし、それでも私たちの日々の消費行動が変わる可能性は低いでしょう。
たとえば、世界保健機関によると、世界には障害のある人が10億人以上います。障害のある人々は合わせると世界最大のマイノリティを構成しますが、最も脆弱で、社会から疎外されている人々でもあります。こうした排除の文化は、私たちと異なる人々への恐れや思いやりの欠如から生まれます。誰もがいつでも障害を持つ可能性があることを考えれば、障害のある人々を思いやらないことは、私たち自身の利益にもかないません。まして、障害のある人々やその家族が、彼らのために、あるいは彼らとともに設計されていない世界で毎日暮らしていることを考えれば、なおさらです。
しかし、最近の研究は、他者を思いやることが私たち自身にも良い影響をもたらすと示しています。それは幸福度を高めます。自らの意思で他者を支援することは、「ストレスの軽減、幸福感の向上、社会とのつながりの実感の増大」につながります。ペットを思いやることにも心を落ち着かせる効果があり、生きる意味や目的をもたらします。ストレスが減り、幸福感が増し、社会にうまく溶け込めると、長期的により良い決断ができます。他者を思いやることは、経済的にも理にかなっています。高齢化が進むなか、米国だけでも、「医療関連職の雇用は2016年から2026年にかけて18%増加すると予測されており、全職業の平均を大きく上回る」と推定されています。自動化時代の雇用の将来に大きな不安が広がるなか、他者をケアする仕事に就くのは有望な選択肢に思えます。
他者を思いやることで、異なる視点から世界を見ることもできます。多様性は今日、最も激しい議論を呼ぶテーマかもしれません。しかし、企業にとって収益にプラスであることは疑いありません。マッキンゼーの報告書は、カナダ、ラテンアメリカ、英国、米国の幅広い業種にわたる上場企業350社超のデータを分析し、人種・民族の多様性が上位4分の1に入る企業は、それぞれの国・業界の中央値を上回る財務リターンを達成する可能性が35%高く、ジェンダーの多様性が上位4分の1に入る企業ではその可能性が15%高いことを示しました。
自然を思いやることも、同じ方程式の一部です。私たち自身の生存は生物多様性と結びついています。ナショナル ジオグラフィックが伝えるように、「植物は酸素を放出して人間を助けます。食料、日陰、建材、医薬品も提供します。植物の根系は洪水の防止に役立ちます。植物、菌類、ミミズなどの動物は、土壌を肥沃に保ち、水をきれいにします。生物多様性が失われると、こうしたシステムは崩壊します」。私たちの社会システムも崩壊します。
これまでのグローバル化の波は、私たち一人ひとりの繁栄を支えるのは協力ではなく競争だという考えを、心に刻み込んできました。しかし、いつもそうだったわけではありません。人類学者のサミュエル・ヴェシエールは、進化論者のキム・ステレルニーとタッド・ザヴィツキによる研究を引き、「私たちの種が生き残り、進化し、繁栄したのは、貢献の度合いが対称的かどうかにかかわらず、全員が取り分を得て生き続けられるようにする継続的な集団の取り組みがあったからこそだ」と述べています。どうやら私たちは、いつもただ乗りする人を警戒していたわけではないようです。
未来を見据える今、私たちは柔軟に考え、別のところに着想を求める必要があります。たとえば、古代の思想や、道教の倫理のように、無私と自然体を説く哲学体系から学ぶことができます。スーフィーの指導者、シェイク・ベントゥネスのように、世界を根本から捉え直す必要もあるでしょう。彼は人類を一つのかけがえのない身体と考え、全体の健康は身体のあらゆる部分の健康と結びついていると捉えています。あるいは、栄養と幸福の関連について理解を深め、肉との神聖な関係を根本から見直すこともできます。学び方や、人々が変わる力について私たちが知っていると思っていることを、全面的に再考しましょう。キャロル・ドゥエックの「成長マインドセット」理論は、脳の可塑性によって、明日を担う子どもたちが「固定化した」行動の流れを変えられるという希望を与えてくれます。
好むと好まざるとにかかわらず、私たちは皆異なり、互いにつながっています。人種や国民としてのアイデンティティ、障害のある人とない人といった、社会が作り上げた概念があっても、私たち全員が生態系の一部であるという事実は変わりません。多様性の現実や世界の課題の複雑さから退き、自分たちと身内の必要だけを守る殻を作ることは、実際には自分たちの利益に反します。今こそ、自分自身と他者に、他者を思いやるよう促すべきです。自ら進んで誰かを助けること、シェルターでボランティアをすること、より包摂的で利用しやすい職場を作ること。そうすれば、自分たちにも、企業にも、地球にも良い、より良い決断ができます。
ダボス会議2019では、政治家、CEO、専門家、文化変革の担い手たちが、「グローバリゼーション4.0」に向けた新たな枠組みの構築方法を議論します。その新たな枠組みは、あらゆる人を包摂し、持続可能で、より広い生態系と調和するものでなければなりません。それを実現する唯一の方法は、他者を思いやる文化を新たに育むことです。利他主義からでなくとも、少なくともそれが自分たちの利益にもかなうと理解したうえで。
