音楽のアルゴリズム
バロック期の作曲家ヨハン・セバスティアン・バッハは、ルター派の聖書の言葉に基づく多声音楽の賛美歌、コラール・カンタータを数多く作曲したことで知られています。それぞれは比較的単純で、1つの旋律に3つの和声が伴います。そこで、パリにあるソニーコンピュータサイエンス研究所のガエタン・ハジェレスとフランソワ・パシェは、機械がバッハと区別のつかないコラール・カンタータを作れるかどうか調べるのは興味深いと考えました。
その答えを見つけるため、彼らはニューラルネットワークを開発し、DeepBachと名付けました。そして今、その問いへの答えを得ています。「ヨハン・セバスティアン・バッハのコラールの和声付けを学習させた後、私たちのモデルはバッハ風の非常に説得力のあるコラールを生成できるようになりました」と、ハジェレスとパシェはMITテクノロジーレビューに語りました。
DeepBachは、バッハのカンタータ352曲を、あらかじめ定めた声域内で別の調に移調し、合計2,503曲のコラールを作成したデータセットを使って学習しました。このうち80%をDeepBachの学習に、残りを検証に用いました。学習後、ソプラノの旋律を与えると、DeepBachはバッハ風のアルト、テノール、バスの和声を独自に作れるようになりました。
何より重要なのは、DeepBachの作品が人々を欺くことさえあった点です。研究チームは1,600人以上(その4分の1はプロの音楽家または音楽を学ぶ学生)に、同じ旋律に対する異なる2つの和声を聴いてもらいました。その結果DeepBachが生成した和声をバッハの作品だと判断した聴取者は半数を超え、一方、バッハの音楽を正しく見分けた聴取者は75%でした。「バッハの作品の複雑さを考えれば、これは良い成績だと考えています」とハジェレスとパシェは述べました。
人間にできることは、AIにもできる
人工知能(AI)はほぼあらゆる分野に入り込めますが、とりわけ数学的なものに適しています 。数学が関わっていれば、アルゴリズムを開発できる可能性が高いのです。音楽は数学的であり、バッハのような作曲家は、しばしば定められた段階的な流れに沿って音楽を作りました。それはほとんどアルゴリズムのようなものです。
興味深いことに、バッハの音楽は、AIを題材にしたテレビシリーズ「ウエストワールド」に登場します。しかし、AIアルゴリズムが大きな成果を上げ、場合によっては実際の人間を上回っている分野は、音楽だけではありません。たとえば、人間の専門家を上回った音声認識アルゴリズムや、自殺の危険がある患者、自殺念慮のある患者、抑うつ的な行動、そして犯罪傾向を予測した心理学分野のAIがあります。さらには、法律に取り組むAIもあります。
