この記事は、世界経済フォーラムの地政学プラットフォーム
生物科学の技術進歩は長年にわたり、生物安全保障と生物兵器の拡散防止に重点を置くガバナンス枠組みに課題を突きつけてきた。
例えば、バイオテクノロジーの進歩により、細菌から人間に至るまで、生物の遺伝的構成を改変することが、より迅速に、より安価に、より容易に行えるようになった。
しかし、こうした進展は、「新興」に分類される技術を含む他の技術と相互作用したり、それらによって可能になったりすることが多い。
バイオテクノロジーの最近の進展と他の新興技術との融合は、大きな可能性をもたらす一方で、バイオテクノロジーが悪用される可能性も高める。
具体的には、技術進展の融合が生物兵器の開発、製造、使用に影響を及ぼし、国家および非国家主体への生物兵器の拡散防止を目指すガバナンスの取り組みに課題をもたらす可能性がある。
報告書バイオ・プラス・X:生物学と新興技術の融合における軍備管理は、この融合がもたらすリスクと課題を検証している。
ガバナンスの仕組み
本報告書は、新たな技術進展から生じる懸念に既存のガバナンスの仕組みでどこまで対処できるかを分析する。特定された限界を踏まえ、著者らは政府、国際機関、民間セクター、そして社会全体に必要な行動を提言している。
3つの具体的な新興技術、すなわち積層造形(AM、3Dプリンティングとも呼ばれる)、人工知能(AI)、ロボット工学の進歩は、それぞれ異なる形で、生物兵器やその運搬システムの開発または製造を容易にする可能性がある。これまで人間による手作業での操作や分析を必要としていた開発・製造工程を自動化できるようにすることなどが、その一例である。
これらの技術は、生物兵器の使用に新たな可能性をもたらすとともに、デジタル化された生物データや運転パラメーターがサイバー攻撃にさらされるリスクを高める可能性もある。
3つの技術はいずれも制御が難しい。デュアルユース性やデジタル化に加え、主に民間部門と民間企業によって開発されていることも、その理由である。
しかし、生物兵器やその運搬システムの設計にこれらの技術が及ぼす影響を誇張すべきではない。生物兵器の開発・製造を目的にこれらの技術を活用するには相当な専門知識が依然として必要であり、そのことが大半の主体にとって障壁となっている。
限定的な対応範囲
1972年の生物兵器禁止条約(BTWC)は、生物兵器管理における中心的なガバナンス手段である。同条約は、輸出入管理措置、生物安全保障およびバイオセーフティに関する法令・指針・基準、危険物輸送規則、関連する技術進展を監視する仕組みなど、幅広い手段によって補完され、または実施されている。
しかし、既存のガバナンスの仕組みがAM、AI、ロボット工学の応用を対象とする範囲は限定的で、多くの場合、間接的にとどまる。ガバナンス枠組みは、バイオテクノロジーとこれらの新興技術とのつながりを探る可能性を活用してこなかったか、十分に活用できていない。
条約体制やその他のガバナンス手段は、対象とする各技術同士に比べ、互いに連携する度合いが一般にかなり低い。したがって、技術の発展と融合という観点から生物安全保障分野のガバナンスを捉える際、関連するガバナンスの仕組みをいかにより緊密につなぐかが、全体を貫く問いとなる。
これらの技術や関連するリスク、また既存の枠組みが規制する活動、移転、行動に及ぼし得る影響について、理解が不足している。
科学技術の進展への対処は、決して新しい課題ではない。しかし、その影響に対処する措置は、現在の進展の動向に遅れず対応しなければならない。したがって、ガバナンス手段の改善では、バイオテクノロジーとの融合を通じて重大な影響を及ぼし得る新技術の構造的要因や新たな特性に対処する必要がある。
リスクへの対処
主な結論は、これら3つの新興技術の新たな進展が生物兵器の開発・使用のさまざまな段階を可能にし得る一方、既存のガバナンス枠組みには、こうしたリスクに包括的に対処する力が不足しているということだ。
バイオテクノロジーと他の新興技術との融合を管理する能力を高めるため、各国政府、欧州連合(EU)などの地域機関や国際機関に加え、学術界、民間セクター、DIYコミュニティが具体的な措置を講じることができる。
各国政府は、技術進展をより体系的に評価し、国内の関係者を把握し、議会による評価の仕組みを活用し、関係当局への資源を増やすとともに、生物学的事案の検知、予防、対応、原因主体の特定に関する研究を強化すべきである。
学術機関は、すべての自然科学課程に倫理、法律、バイオセーフティの必修科目を導入すべきである
EUは、デュアルユースのリスクに関連して、バイオテクノロジー業界やバイオセーフティ関連団体との連携を強化すべきである。BTWC体制は、作業慣行や関係者との連携を含む一部の要素を改革し、BTWC科学諮問委員会を設置すべきである。また、融合の問題を議題に取り上げ、商業用バイオテクノロジーや新興技術が悪用される可能性に、より適切に対処することもできる。
学術機関は、すべての自然科学課程に倫理、法律、バイオセーフティの必修科目を導入し、学際的な技術評価の取り組みを促進するとともに、特に技術融合に起因するリスクへの対処に関して、各国の科学アカデミー間の連携をさらに強化すべきである。
民間セクターは、自主的なガバナンスとコンプライアンス基準を継続的に強化すべきである。DIYコミュニティは、コミュニティ・ラボ向けの生物安全保障ワークショップをシリーズで開催し、責任ある科学と生物安全保障への意識を高める国際的な取り組みを強化できる。
バイオ・プラス・X:生物学と新興技術の融合における軍備管理、コルヤ・ブロックマン、シビル・バウアー、ヴィンセント・ブーラナン、ストックホルム国際平和研究所
