「それは……痛みを反対側に負わせるチャンスだった。そして私たちはそうした。」
2016年の国民投票後に語られた、EU離脱派のある人物の発言は、グローバル化と第四次産業革命という二つの力のもとで、多くの人々が抱いた不満をよく表している。経済がこれほど急速に変化し、勝者と取り残された人々の格差がこれほどあからさまに見える時代はなかった。反発が起きるのも当然だ。
近年、多くの先進国はグローバル化と技術進歩から多大な恩恵を受けてきた一方、中間層の空洞化、雇用主が減り労働者の力が弱まる一因となる多くの分野での市場集中の進行、生産性の伸びと賃金上昇の乖離も経験してきた。
多くの新興市場では状況が異なる。デジタル技術が情報、市場、サービス、雇用へのアクセスを提供して競争条件を平準化し、起業家の活躍を可能にすると、人々はデジタル技術をより前向きに受け止める。しかし、かつて製造業主導の開発モデルが約束したものが薄れるなか、それに何が取って代わるのかは明らかでない。新たに豊かになった中間層は、自分たちの子どもにも成功への道が開かれているのか、懸念し始めている。
社会における信頼の柱の一つは、暮らしが悪化するのではなく、良くなっているという実感だ。しかし、多くの経済で、次世代の機会は広がるどころか減っているという感覚がある。第四次産業革命は、私たちが慣れ親しんだよりどころとのつながりを断ち、拭いきれない不安を残した。それがポピュリズムの火に油を注いでいる。
共通の目的を見いだす
先進国、新興国を問わず、グローバル化と第四次産業革命の双方に対処するうえで中心的な優先課題となるべきなのは、共通の目的意識と基本的な経済的安定を取り戻す、新たな社会契約を具体化することだ。
言い換えれば、新技術が分断や不満を生むのではなく、人々と経済の繁栄に役立つようにするには、どうすればよいのか。この問いに簡単な答えはない。主要な課題、それに関する証拠、そして対応策の選択肢について、共通かつ客観的な理解が必要だ。意思決定のためのこうした共通の枠組みは、しばしば欠けている。
ダボスでの年次総会を前に、世界経済フォーラムの「新たな経済アジェンダ」「新たな社会契約」「新たな指標」に関するグローバル・フューチャー・カウンシルは、2019年の経済課題を特定し、さまざまな根底の価値観、イデオロギー、原則に基づく対応策の全体像を客観的に示すため、学際的なアプローチを試みてきた。こうした対応策のなかには完全に相容れないものもあれば、重なり合うものもある。この統合の成果は、第四次産業革命における新たな経済の形成と題する、今週発表された白書にまとめられている。
この白書は、次の4つの問いに焦点を当てている。
経済的価値とは何かを根本から考え直す必要があるのか。そうするために、どのような実践的な道筋があるのか。
デジタル経済が形づくられるなか、「価値創造」に新たな側面がいくつも加わったが、それらは従来の概念や指標に十分に組み込まれていない。特に、新しい種類の資産や経済活動への理解は十分でなく、消費者の厚生を高める(あるいは損なう)新たな要因も適切に測定されていない。ウィキペディアのオープンな知識にはどのような価値があるのか。デジタル技術が私生活に入り込むことで、どのような損失が生じているのか。さらに、利益がどのように分配されているかの全体像も不完全であり、経済において真に価値を創造しているのは誰なのかという疑問もある。
経済的価値を再考するために、5つのアプローチが提案されている。1)新たな無形資産を幅広く特定し、会計に反映する。2)デジタル由来の価値を反映できるよう、GDPを改良または補完する。3)消費者の厚生、ウェルビーイング、社会的価値の測定方法を改良する。4)新たな指標では分配と細分化データに焦点を当てる。5)価値の基本的な定義を見直し、価値創造とレントシーキングの違いを明確にするとともに、市場は公共部門と民間部門の双方の主体によって共創されるものと捉え直す。
オンライン・プラットフォームが生み出す市場集中に対処する必要があるのか。懸念と利益のバランスをどう取ればよいのか。
デジタル・プラットフォームは、新たなサービスの登場、選択肢の拡大、マッチングの迅速化、コストの低下を通じて、消費者にさまざまな利益をもたらしている。マーケティング・チャネル、信用、物流などの基本的なサービスへのアクセスを提供し、新規事業者の参入を後押しすることもできる。また、市場の双方で利用できる情報を増やし、より効率的な求人と求職のマッチングを可能にすることで、労働者と雇用主にも利益をもたらす。しかし同時に、規模の拡大と、それに伴う市場支配力の集中によって、こうした利益の一部が相殺され、イノベーション、品質、分配の結果に影響が及ぶ可能性がある。
プラットフォームの市場集中に対処するため、プラットフォームに対する根本的な見方がそれぞれ大きく異なる5つのアプローチが提案されている。
1)プラットフォームも他の企業と変わらないため、抜本的な変更はせず、既存の規制を改善し、適応させる。
2)プラットフォーム経済における市場集中の影響を測る新たな指標を開発する。
3)技術を活用して参入障壁を下げる。
4)代替手段の創出を促す。
5)規制の枠組みを全面的に見直す。
雇用創出に向けた先行的な対策を検討する必要があるのか。今日の経済において、それはどのような内容となるのか。
技術の進歩によって、人間が担う仕事と機械やアルゴリズムが担う仕事の配分が急速に変化するなか、世界の労働市場は大きな変革期を迎えている。賢明に対応すれば、こうした変革は、誰もが良質な仕事と雇用に就き、生活の質が向上する新たな時代につながる可能性がある。対応を誤れば、格差の拡大と、より広範な分極化を招くおそれがある。第四次産業革命における雇用喪失への対策については幅広い議論がある一方、雇用創出を促進すべきか、またその最善の方法についての見解は限られている。
5つのアプローチが提案されている。
1)IT、グリーンエネルギー、教育、ケアなどの優先分野に重点を置いて雇用拡大を促し、その過程で、より結束力のある社会を築く。
2)雇用の維持と創出の鍵となる道筋として教育と技能を向上させ、人間の比較優位を生かす技能を伸ばす。
3)雇用創出に適した環境を整えるため、より広範な実現基盤に焦点を当て、公共部門と民間部門の双方で政策や行動の変化を促す。
4)新たな労働市場をよりよく理解するため、新しい指標を開発する。
5)新たな雇用の質を確保し、オンライン労働を含む新しい雇用形態について、双方に利益のある方法を見いだす。
社会的セーフティネットを再構想する必要があるのか。どのような選択肢があるのか。
先進国では、正式な就労や安定した雇用契約に結びついた社会保険制度の有効性が低下している。職を失ったり、不安定な仕事や低賃金、良質な雇用への不平等なアクセスを経験したりする人が増えているためだ。仕事の形態が多様で非公式であることが多い途上国では、技術の進歩によってこの傾向が続き、柔軟な働き方の機会がさらに増えるとみられる。将来の社会的保護モデルがどのようなものになるかは、依然として問われている。新たな労働の世界への移行にあたり労働者に支援が必要だという点では広く合意がある一方、その支援の深さと範囲、提供を担う主要な関係者については大きな議論がある。
6つのアプローチが提案されている。
1)雇用法や労働組合の活動のための市民的空間など、既存の手段を執行し、改善する。
2)社会的保護のための新たな資金調達モデルと歳入確保に焦点を当てる。3)ギグワーカーがしばしば直面する収入の変動に対するフィンテックの解決策など、商業的な解決策の可能性を活用する。
4)社会的保護給付の柔軟性と相互運用性を高める。
5)精密なセーフティネットの可能性を探る。6)普遍的または条件付きのベーシックインカムとサービスを導入する。
今後の展開は?
今日、将来世代の暮らしをより良くする新たな経済を形づくる、またとない機会が訪れている。この機会は長くは続かず、新たな経済の潮流と、それが解き放つ社会の力は、やがて固定化される。
来週、ダボスのリーダーたちは、上記の問いの背景にある難題などについて議論する。今後1年間、フォーラムは、これらの対応策を試し、優れた実践を共有し、最善の行動方針について合意を形成し、解決策を拡大するための場を提供する。新たな経済における新たな課題と、その対処法について、ぜひ皆さんのアイデアを共有し、議論にご参加いただきたい。
以下のアドレスまでご連絡ください。CNES_DialogueSeries@weforum.org。
