新型コロナウイルス感染症による経済混乱は、バングラデシュで何百万人もの生計を脅かしている。
同国にはインフォーマル部門で働く人が5,000万人以上いる。
政府が取るべき措置には、大規模な現金給付プログラムなどがある。
バングラデシュにとって、災害や大規模な人道危機は初めてではない。ヒマラヤ山脈の麓に広がる河口デルタに位置する同国は、長年にわたり気候変動の影響と闘い、現在は南部国境沿いに世界最大の難民キャンプを抱えている。建国から49年の間、バングラデシュとその人々は、洪水やサイクロンなどの自然災害だけでなく、1997年のアジア通貨危機や2008年の世界金融危機といった人為的な危機にも立ち向かい、驚くべき回復力を示してきた。
しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、まったく異なる規模の危機であり、前例のない規模の対応が求められる。公的部門と民間部門のバングラデシュの指導者たちは、保健医療体制への差し迫った脅威と、同国経済への長期的な影響に対処するため、協力しなければならない。
政府のこれまでの対応
バングラデシュで初めて新型コロナウイルス感染症の感染が確認されたのは3月8日だった。本稿執筆時点で、バングラデシュの感染確認者数は620人を超え、ウイルスによる死者は30人以上に上っている。
2月初旬、政府は中国からバングラデシュ国民約300人を退避させた。また、国際空港と陸路の国境検問所に検査機器を設置し、これまでに65万人を超える乗客を検査し、そのうち3万7,000人を直ちに隔離した。
政府はまた、迅速に動き、2つの宗教施設を臨時の隔離施設に転用した。さらに、最初の感染が確認された後、教育機関を閉鎖し、必要不可欠でない事業者には活動をオンラインに移すよう促した。当初は全国的な休日を4月4日までと宣言したが、その後4月14日まで延長した。
欧州に大規模なバングラデシュ系移民コミュニティがあるにもかかわらず、政府は大胆にも欧州からの全便を運休させた。韓国やシンガポールなど東アジアの近隣諸国の取り組みを参考に、政府は国内の携帯電話事業者を通じて大規模な啓発キャンペーンを開始した。民間部門もこれに協力し、政府は500を超える電話相談窓口を開設するとともに、自らのプラットフォームで民間サービス事業者を相互に紹介している。
最前線で働く医療従事者に必要な個人用防護具(PPE)を確保するため、バングラデシュ衣料品製造・輸出業者協会(BGMEA)は現在、加盟企業5社と連携し、生産ラインを転換してPPEを50万着製造しようとしている。
経済的脅威
これまでの対応は称賛に値するが、このパンデミックは経済危機であると同時に人道危機も引き起こしている。多くの国が景気刺激策で一定の成果を上げ始めている一方、バングラデシュの対応は遅れている。首相は当初、3月25日に緊急景気刺激策として6億ドル(GDPの0.2%相当)を発表し、4月4日には大幅に拡充して85億ドル(GDPの2.5%相当)とした。
3月26日にエコノミスト・インテリジェンス・ユニットが発表した予測によると、2020年の世界経済は2.2%縮小すると見込まれる。ドイツ、イタリア、英国、米国など主要なG20諸国では影響がさらに顕著になると予想される。これらはいずれも、バングラデシュにとって最も重要な輸出品である既製服の主要市場だ。
欧州と北米では現在、4月中旬までロックダウンが実施されている。最良のシナリオでも、これらの経済圏で市場の信頼が回復するには少なくとも6月中旬までかかるだろう。その結果、主に製造業で構成されるバングラデシュのフォーマル部門では、約600万人の労働者が長期間、安定した仕事を失うことになる。
原油価格の低迷は、中東・北アフリカ地域の成長を大きく反転させることにもなる。同地域には多くのバングラデシュ系移民が暮らし、毎年約200億ドルを送金している。今後数カ月、送金が減少することは疑いなく、その二次的な影響も国内に及ぶ。特に農村部では、生活を送金に大きく頼る家族に深刻な影響が及ぶだろう。
さらに必要な対策
首相が発表した拡充後の景気刺激策は称賛に値し、正しい方向への一歩である。中小企業の運転資金をつなぐ融資に約25億ドルを割り当てたこの政策は、その部門で働く人々の生計を守るための大胆な措置だ。危機の規模を考えれば、これほど大規模な景気刺激策でさえ、あくまで一時しのぎと捉えるべきである。
さらに懸念されるのは、バングラデシュ統計局のデータによると、同国にはインフォーマル部門で働く人が5,000万人以上いることだ。フォーマル経済の労働者の生計にも大きな影響が及ぶが、インフォーマル部門がさらに深刻な打撃を受けることは間違いない。首相がこれを課題と認識したのは正しく、バングラデシュ既存の社会的セーフティネット事業、例えば「脆弱層向け食料支援」と「脆弱層開発」を通じて6カ月間食料支援を配布する決定も歓迎すべきだ。
政府はまた、最初の3カ月間、月額95ドルを無条件で給付する現金給付プログラムを検討すべきだ。この額はバングラデシュのフォーマル部門の最低賃金に相当する。実施には政府に約140億ドル、GDPの4%の費用がかかる。この種の現金給付プログラムには常に対象者の選定に課題が伴うが、バングラデシュには高度に発達したモバイル金融サービス網があり、プログラムの対象範囲を広げられる可能性がある。インフォーマル部門で活動する非政府組織、モバイル金融サービス事業者、政府が連携して、この緊急に必要とされる社会支援を届ける仕組みを構築できるだろう。
このような大胆な措置を取れば、バングラデシュは通常の慎重で規律ある財政運営、すなわち財政赤字をGDP比5%以内に保つ方針を断念せざるを得ない。債務の対GDP比が低いバングラデシュには、危機の経済的・人道的側面に対処するため、短期的に拡張的な政策を採用できる財政余地が十分にある。この拡張策の財源として、多国間開発銀行を通じて利用できる譲許的融資も活用すべきだ。
財政面の措置、すなわち景気刺激策には、金融政策面の措置も組み合わせなければならない。バングラデシュ銀行はすでに、融資返済を6カ月間猶予し、2020年6月まで実施するとともに、貿易取引に関する外国為替規制を2020年9月まで緩和した。また、モバイル金融サービスの取引上限を引き上げ、政策金利を25ベーシスポイント引き下げた。これらは正しい方向への措置だが、世界的なパンデミックによる経済的影響に対抗するには不十分な可能性が高い。
世界的にインフレが鈍化すると見込まれるなか、中央銀行は各国の同業機関にならい、法定流動性比率(SLR)を引き下げ、政策金利をさらに下げることで流動性を一段と供給すべきだ。これにより銀行部門の流動性を維持できるだけでなく、国内の中小企業が安価な運転資金を利用し、事業を継続できるようになる。
官民連携が鍵となる
保健安全保障の面で早期に措置を講じたことで、バングラデシュはこのパンデミックに対応する時間をある程度確保できた。しかし、この危機に伴う二次的な経済リスクに不意を突かれる余裕はない。
新型コロナウイルス感染症との闘いは政府だけでは担えない。国内外の公的部門と民間部門の間で、前例のない水準の連携が必要となる。世界保健機関(WHO)の委任を受け、世界経済フォーラムはパンデミックへの対応としてCOVIDアクション・プラットフォームを立ち上げた。バングラデシュはこのプラットフォームを活用し、民間部門への支援を結集するとともに、新型コロナウイルス感染症との闘いや経済の強靱性向上に関する自国の経験を共有すべきだ。
この記事は当初、Ittefaqに掲載された。

