東京都は、2020年夏季オリンピック・パラリンピック大会の開催都市として、観客の方々に、優れた競技施設とこれまでにない体験を提供すべく、取組みを進めています。そして、過去の多くのオリンピック開催都市とは異なり、東京都は、計画立案のすべてのプロセスで、経済、社会、環境の観点から、長期的なニーズが満たされるよう取組みを推進しています。

オリンピック大会に向けて、多くの開催都市では、巨大な建造物が立ち並ぶ街に変貌してしまう傾向があります。一般的に、新たに建設される施設は、オリンピックという目先のイベントのためだけに建設され、地域社会の長期的なニーズは考慮されていません。そのため、開催都市では、新たに建設された最先端の施設が、大会後にはホワイトエレファントと化してしまうというケースも少なくありません。また、多くの開催都市は、財政的にも極めて厳しい状況に直面しかねません。しかし、2020年の夏季オリンピック・パラリンピック開催都市である東京都は、このような困難な状況に陥ることはありません。なぜなら東京都は、経済的な側面と同様に、将来をしっかりと見据え、持続可能な方法で大会運営にも取り組んでいるからです。

イメージ: 公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のホームページから引用

東京都知事として、もちろん私自身も、この重要なイベントに参加される全ての観客の方々に、優れた競技施設とこれまでにない体験を提供できるよう取り組んでいます。さらに、あらゆる局面において2020年大会とそのレガシーが、半世紀近くに亘り東京都が推進してきた、環境面における持続可能性の原則に沿ったものになるよう尽力しています。

こうした原則への東京都の取組みは、苦難の末に達成されています。太平洋戦争(第二次世界大戦)後、東京は、日本の他の地域と同じく、真っ先に復興に取り組みました。1950年代から60年代にかけて、東京都の経済(および都市の景観)は劇的に変化し、東京都の人口は、1955年頃から始まった高度経済成長によって加速度的に増加しました。それにより、多くの工場が建設され、東京の環境は目に見えて悪化しましたが、当時は1964年の東京オリンピック・パラリンピックに懸ける強い意気込みから、環境問題よりも経済発展が優先されました。

そして、1970年代のオイルショックは、化石燃料に大きく依存した経済構造という過ちを浮き彫りにしました。しかし、その後の数十年間で、東京都は世界有数の化石燃料の消費者という立場から、再生可能エネルギーの利用をリードする立場へと、自ら再び変貌を遂げました。かつては、世界で最も大気汚染が深刻な都市のひとつであった東京都が、今では、多くの人口を抱えるメガシティでありながら、最もクリーンな都市のひとつと称されるまでになったのです。

これは、短期的な視点による応急処置や、その場しのぎの対策が生んだ幸運な結果ではなく、東京都が、長期的なニーズを的確に判断し、それに基づき入念な計画を立案し対応した成果です。東京都は、現在もこのアプローチを忠実に守っており、今後もさらに推進していきたいと考えています。

私が都知事に就任した2016年、東京都は、2020年と2030年までに達成すべき、環境分野における持続可能な目標を設定しました。それからわずか3年で、東京都はすでに、小売店でのレジ袋の無償配布ゼロや、家庭や企業におけるLED照明への切り替えといった、2020年までの目標を100%達成しようとしています

同時に、2030年目標に向けても大きく前進しています。例えば、都内廃棄物の最終処分量の削減目標も達成まであと一歩のところにきており、再生可能エネルギーによる電力利用割合に関する目標も50%程度達成しています。また、2030年までに都内の乗用車新車販売台数の5割をZEV(電気自動車、燃料電池自動車など)にする、という目標の達成に向けて順調に前進しています。

さらに、2016年以降、大規模な事業所に対してCO2排出削減を義務付ける、東京都キャップ・アンド・トレード制度の導入など、あらゆる措置により、東京都のエネルギー消費量を約24%削減しました。これはエネルギー消費量38%削減という2030年までの目標をすでに半分以上達成したことを意味します。また、エネルギー消費量のさらなる削減と、再生可能エネルギーの利用拡大に向けて、「グリーンビルディング」施策を進めています。これらの取組みの成果からも期待できるように、長期的に見て、東京都はCO2排出量ゼロを達成できると考えています。

今回のオリンピック・パラリンピック大会の開催は、これまでの環境への取組みを台無しにするようなものではなく、むしろ強化していくものです。この大会は「サステイナブルな大会」と捉えられるべきものであり、当然ながら、環境への影響を配慮する取組みについて、決して楽観的になっているわけではありません。

しかし、「グリーン」な大会を維持することははじめの一歩にすぎません。知事就任以来、私は、必ず2020年大会が東京の経済に好影響をもたらすような、将来的にもプラスの効果が感じられるような大会にしようと肝に銘じて取り組んできました。つまり、計画立案のすべてのプロセスで、経済、社会、環境の観点から長期的なニーズを満たすとともに、私が引き継いだ段階ですでに膨張していた予算を削減することを意味しています。例えば、選手村の建物のひとつで福島県産「CO2フリー水素」が供給される予定です。また、大会後には、宿泊施設を販売する予定です。

これは、世界中の都市が必要としている計画です。東京都は高度成長期を経験した大都市として、北京、ホーチミン、ジャカルタといった、急成長を遂げている他の都市圏に対して、モデル都市としての役割を果たすことができると考えています。そのため、東京都は環境面の持続可能性がもたらすメリットについて、その経済的利益も含めて、アジアをはじめとする各地域の主要都市と協議を行っています。

しかし、そろそろ説得の時期を終え、集中的かつ協調的に行動する時代に移るべきです。世界で最も著名な日本人の現代作家である村上春樹氏は、1988年の小説「ダンス・ダンス・ダンス」の中で次のように書いています。「時はどんどん過ぎ去っていく。過去が増えて未来が少なくなっていく。可能性が減って、悔恨が増えていく。」

各都市は今こそ行動を起こすべきです。時の移り変わりを、より豊かで持続可能な未来への可能性から、その機会を逸したことへの後悔に変えてはいけません。もちろん、簡単なことではありません。しかし、東京都が2020年オリンピック・パラリンピック大会に向けて取り組んできたように、世界中の都市が困難な課題に取り組めば、より良い未来を創造することは可能です。市民のそして、地球の長期的利益を守るために、強い信念を持ち、慎重に行動するという姿勢を持って取り組むことが鍵です。

*本文は英文で寄稿されたAgendaを、世界経済フォーラムが作成した抄訳です。